121 / 225

千歳の章7

***  体の奥で疼く熱は、まだ、冷めない。  熱く激しい時間を過ごした二人は、その余韻に浸り、微睡んでいた。織は鈴懸の腕に頭を乗せて、ぼーっと鈴懸を見つめている。完璧な造形の横顔を見ていると、彼は本当に神様なんだ――なんて思うと同時に、この人が先ほどまでは自分に夢中だったというのが信じがたい。 「織……」 「……はい」  鈴懸が織の頭を、大きな手のひらで撫でる。闇夜に溶けいるような鈴懸の低い声が、織の心を抱きしめた。 「……さっきの、本気、なんだ」 「……さっき?」 「おまえに、妻になって欲しいっていうの」  鈴懸は向き直り、織の顔をじっとみつめた。至近距離で見つめてくる鈴懸の瞳が、切なそうにふるえていて……織はあまりにもきゅんとしてしまって、言葉に詰まる。そんなにも、「愛おしい」なんて目で見つめられては、参ってしまう。 「……おまえと出逢っていなければ、俺はずっと孤独だった。おまえじゃなかったら、俺は何も変われていなかった。俺の人生には、おまえが必要だったんだ。俺はおまえとの出逢いを、運命だと思っている。愛しているんだ、織。おまえと永遠に一緒にいたい」 「……っ、」  鈴懸の求婚の言葉に、織は息を呑んだ。そして、同時に。瞳に、涙を滲ませる。  彼と出逢ってから、世界が変わった。自分は彼に救われた。内側に閉じこもっていた自分が変われたのは、彼に出逢ったから。そんな彼に、永遠を求められて、死にたくなるくらいに嬉しい。昏い世界を生きていた今までの自分が、ようやく、救われたーーそんな気がした。 「鈴懸……貴方の、永遠になりたい」 「織――……、」 「……、ごめん、なさい……嬉しくて、言葉が、……でてこない」  声をあげて泣き出した織。ぼろぼろと幸せの涙を流す織を見て、鈴懸も泣きそうになる。  鈴懸は織を抱きしめ、唇を噛み締める。そうしていなければ、嗚咽をあげてしまいそうになったからだ。 「……幸せになろう、織」 「……っ、はい」  ずっと、抱きしめあっていた。織の泣き声が、鈴懸の胸に沁みてゆく。  夜の静寂が、二人を包み込む。

ともだちにシェアしよう!