131 / 224

千歳の章14

*** 「あら織さま! 洋装もとても素敵ですわ」  暦と、二回目になる顔合わせ。今回は両親はついていない。つまり、逢瀬ということだ。  織の両親は、今日、織が暦と会うことを知っている。服装から髪型まで、専門職の者を呼んできっちりと見立ててもらった。そのおかげか、暦の目は初めて出会ったときよりもどこかきらきらとしている。  しかし、織はといえば。気分は、最悪。暦のことは嫌いでないし、話していても楽しいと思うが……こうしていると鈴懸との未来がどんどん遠のいて行くような気がして、辛かった。そんな気持ちを抱いていると暦に申し訳ないと感じてしまうし、そんな罪悪感もまた、苦しい。 「気分が優れないのですか? 顔色がよろしくなくてよ」 「い、いえっ……き、緊張しちゃって」 「織さま、とても麗しいお顔をしているけれど、女性には慣れていなそうですものね」 「どういうことですか」 「少年のような、瑞々しさがありますわ。不思議ね、恐ろしいくらいに色気はあるのに」  暦は、道行く人々全員が振り返るほどに、美しい。そんな彼女が、蠱惑的に目をすうっと細めたものだから、ゾワッとするくらいに妖しかった。 「私、貴方のような殿方、初めてよ。千歳が惚れるのもわかるわ」  織が彼女と微笑みに目をとられていると。ふっ、と突然千歳が姿を表す。暦に憑いて、姿を隠していたのだろうか。 「あっ……」  織は千歳を見るなり、う、と息が詰まるような感覚を覚えた。彼に、苦手意識を抱いていたのだ。  鈴懸に聞いたところ、千歳は白虎という種類の高位の神様らしい。虎という名のとおり、荒々しく、乱暴者――それが白虎という名を持つものの性質。千歳の見た目はいかにも俺様っぽく、荒い性格をしているだろうと容易に想像できる。金色に近い銀髪、爛々と光る鋭い瞳。彼にもしも脅迫でもされてしまったら……と考えると、織は気が気ではなかった。  しかし、織のそんな不安は感じ取っていないのだろうか。暦がけろっとした顔で織をみている。しかも、あろうことにこんなことを言ってのけたのだ。 「さあ、千歳。せっかくの織さまとのお出かけですよ? 私のことなんて気にしないで、織さまとお話ししてはいかが?」  ぎょっとした織は、思わず暦を凝視したが、暦はにこにこと笑うばかり。さらにはつつつ……と少しずつ離れていってしまう。 「えっ、ちょっ、暦さん! どこへいかれるんですか!」 「あとはお二人で楽しんでくださいな」 「待って! 俺の相手は貴女でしょう! えっ、待っ……二人にしないで!」  暦がすーっと二人から離れていけば、物陰から出てきた黒服の男二人が暦の側につく。護衛というものだろう。彼らはそのまま消えてしまって、織と千歳は本格的に取り残されてしまった。織は(ついてきていたのか)と突っ込みたくなったが、それどころではない。 「あ、あの……」 「……千歳だ」 (しゃ、しゃべった……!)  一応、彼はぼそりと名乗ってはくれたが目を合わせてくれない。  何を考えているのかわからない千歳と二人きり。その気まずさに織は逃げ出したくなった。

ともだちにシェアしよう!