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白百合の章42
「ん……ぁん、……あ……」
玉桂の愛撫は、どこまでも甘ったるかった。じっとりと僕の肌を舐めながら、僕のやわらかいところをもみ込んでゆく。僕は、彼に後ろ抱きにされるようにして、ひたすらに、しつこいほどに穴をほぐされていた。
「おまえの躰は、愛されるためにあるような躰をしている。美しい。」
「ぁん、……だんな、……」
「吾亦紅。もっと、愛されよ。今は私が存分に愛してやるが、これから生きてゆくうえで、おまえは……愛し愛される者とまた巡り合う、そうあるべきだ」
「そんなの……ぁっ……僕には、もう……むり……ぁうっ……あっ……」
「そう思うか。それならば、おまえがまた愛されたくなるように……最上の快楽をこの躰に刻み込んでやろう」
玉桂は僕の乳首を指の腹ですりすりとこねながら、もう片方の手で僕の穴を掻きまわす。ぷちゅ、ぷちゅ、と水音が響いてきて、頭がおかしくなりそうだ。すっかりとろけたそこをいつまでも掻きまわしてくるものだから、僕はもう、下半身の感覚がマヒし始めていた。
「愛らしいなあ、吾亦紅。気持ち良すぎて、動くこともできないか」
「だんな、……そこ、もう……や、……ぁ、……あ、あ……」
「いや、ではない。気持ちいいと言ってみよ」
「んぁっ……あ、………きもち、いい……」
僕の体は、一度神と結婚したことで、普通の男の体ではなくなってしまったようだ。
玉桂が言うには、僕の体のなかは女のものに近くなっているのだという。鬼たちに腹を喰われて、子供こそは産むことができなくなってしまったが、その体の変化は残ったままだ。それ故に。僕は、女のように愛液をだすようになってしまったらしい。感じたり、なかに刺激を与えられると、なかから蜜のような愛液が溢れ出してくるのだ。
もちろん、男根からも、いままでのようにとろとろとした液体があふれてくる。僕は、なかからもそとからも、愛液をだす体になってしまっているのだ。玉桂の言う、「愛されるための躰」というのはそれを指しているのだろうか。普通の男よりも女よりもずっと感じやすく、濡れやすい。与えられる快楽をより享受してしまう、そんな僕の体のことを。
「ああ、そうか。気持ちいいか。そうだろう。さあ、もっと善くしてやる。力を抜け、吾亦紅」
「あ……」
玉桂は十分に僕のそこを可愛がり、とうとう熱いものをあてがってきた。僕の体は、それはもう彼の男根を欲しがっていて、先端が当てられた瞬間になかが激しく収縮した。熱くなって、切なくなって、ず……とそれに肉壁をこじ開けられていく感覚に、僕は一気に絶頂に昇りつめてしまう。声にならない声をあげ、玉桂にしがみついて、のけぞりながら天国の幻影をみた。
「ア、――……」
「悦んでいるな、吾亦紅。おまえの躰は、男根が好きらしい」
「あ、あ、……」
「良いことだ。おまえは愛されることを望んでいるということだからな。さあ、鳴くといい。おまえの本当の姿を、私に見せてくれ」
「あッ――はっ、あぁっ……!」
ずんっ……、と奥を突きあげられ、僕の体は跳ね上がった。何をされているのかもわからないくらいに、僕の下腹部は強烈な熱に取り込まれていた。
「ぁっ、ひ、あぁっ、ああっ……」
「もっと、鳴け」
「はぁっ、ん……! あっ、あっ……」
ぎち、と強く抱きしめられながら、僕の躰は上下に揺さぶられる。玉桂の腕は、思っていたよりもずっと太かった。壮年の男だからと、そう体格がいいとは思っていなかったが、あの刀を振るう男である。鎧のような筋肉がその腕についていて、抱きしめられると麻薬にあてられたような、快感にも似た圧迫感を覚えた。
汗ばんだ体、零れる吐息。部屋全体の湿度があがってゆく。月の神と呼ばれる玉桂、こうして暗い部屋の中で体を貪られることに、どうしようもない高揚を覚える。
「あっ、あぁっ……たまかつら、さま……」
「んん、どうした、甘えた声を出して」
「もっと、もっと……もっと、きもちよくして、……はぅっ……あぁっ……」
「ふ、もっと求めろ、吾亦紅。貪欲に、熱を求めよ、吾亦紅……!」
「あぁっ――……!」
胸が締め付けられるようだ。体の奥が痙攣して、何度も何度も達して。それでも、奥を突きあげられて。腹でもすかせたように僕の体は際限なしに快楽を求めたが、それと同時に激しい切なさを覚えた。
快楽に悦ぶは、ひととして生きている証。体を愛撫されることに心が震えるのは、僕が、ひとだから。
鬼に戻ることが怖いか。ひとで在りたいのか。
ひとであれば、永遠に哀しみに抱きしめられるだろう。それを知っているから、僕は鬼へ戻りたいと願ったはずなのに。もう二度と、絶望を味わいたくないと、そう思っているのに。
「あぁっ……もっと突いてぇっ……」
僕は自ら腰を振り始めた。もっと熱が欲しくなった。
「ひ、ぃっ……あ、……いく、……いくっ……」
「イっても、今宵は私から逃げられんぞ、吾亦紅」
「あ、あ、あ、……」
「おまえの心に火をくべてやると約束したからな。延々と夢にみるほどに、終わらない快楽を……月が消えるまで与え続けてやろう」
「あぁあ――……」
玉桂は僕を押し倒すと、一層激しく腰を振り始める。僕はわけがわらかなくなって泣きじゃくってはいたが、それでも無意識に「もっと」と玉桂にねだっていた。
月は、昇り始めたばかりだった。終わらぬ夜が、僕の心に火を灯す。
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