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白百合の章48

 現在、櫨が住んでいる家は、以前住んでいたところよりも少し小さな家だった。体の大きな櫨にとっては少し小さいのではないかと思うその家は、僕が一緒に入れば少々密度が高いと感じられるものだった。そんな場所で体が汗ばむようなことをすれば、一気に部屋の湿度はあがる。じっとりと纏わりつくような空気が、僕たちを包んでいた。 「僕が身籠ってから、櫨は僕の裸をほとんどみたことがなかったな」 「ああ……」 「少し変わってしまったから、驚くかもしれない」 「そう、なのか……?」  布団の上に横になった櫨の上にまたがって、僕は着物を脱いでいった。僕を凝視する櫨の喉元が、ごくりと音を立てる。 「僕の体は……男よりもなめらかで、女よりも隆々としてしまった。見てよ、櫨……全然、違うでしょ?」  ぱさ、ぱさ、と音をたてて着物も下着もほどけてゆく。櫨に視線を浴びせられる僕の体はしっとりと汗を纏っていて、月光に照らされればつやつやと秘めやかな艶を生み出す。僕の体の陰影が、はっきりと櫨に伝わるだろう。 「吾亦紅……ほんとうに、すまない……おまえのことを、放っておいて……どれほど、おまえのことを傷つけたか」 「……そう、貴方のために、この体になったのに。それなのに……貴方は、抱いてくれなかった、愛してくれなかった。櫨……ほら、触ってみて。貴方に愛されるためのこの体は、きっと……気に入ると思うよ」 「吾亦紅……っ、」 「あっ……」  櫨の大きな手が、僕の体を下からゆっくりと撫で上げる。うっすらと傷の残る腹をいつくしむように丁寧に撫でて、そして子供に母乳を吸わせるはずだった胸をゆっくりと揉みあげる。「きれいだ」、呟いた櫨の顔は今にも泣きそうで、彼の中に渦巻く後悔と罪の意識が触れたその肌から伝わってきた。 「あっ、あっ、……」 「……、俺に触られて、感じることができるんだな、……」 「……、貴方のことを憎んでいるからって、……愛していないわけじゃないから、ね……」 「吾亦紅、」 「ずっと……貴方のことを想っていた。ばかみたいって思いながらも、貴方のことが好きだった。嬉しい、……嬉しいよ、櫨。櫨に抱かれることが、嬉しくて……どうにかなりそう。櫨……もっと触って。気持ちいい、……櫨……」  櫨に体中を撫でられながら、僕はゆっくりと腰をゆすった。僕のお尻の下の、櫨の男根を刺激してやるように。お尻の割れ目で挟むようにしてこすってやれば、少しずつ、櫨の男根が熱を持ち始める。 「はぁ、……おっきい……何年振り、だろう……櫨の、これ……」 「吾亦紅、あまり、……煽らないでくれ、……おまえのことを壊してしまいそうになる……もう俺に、そんな資格はないのに……おまえのことを、俺で、めちゃくちゃにしたくなる、」 「ふふ、そうだね。んっ……、……櫨は僕を裏切ったのに、僕にこんなことをして……ほんと、酷い……あっ、……んっ……」  ぺたりと櫨の首元に顔を寄せて、櫨に抱きつく。櫨はかすれた声で僕の名前を呼びながら、僕を抱きしめ返した。 「恨んでくれ、吾亦紅……俺のことを、もっと……」 「あっ……あっ……櫨、……あっ……」  腰を揺する速度を速める。櫨の手が僕の尻たぶを掴んで大きく揉みしだいてきた。櫨の吐息が僕の耳にはあはあとかかって、頭がぼーっとしてくる。 「あっ……櫨の、すごい、……」  二人で息を切らし、興奮のままに腰を揺すっていれば、ようやく櫨の男根が芯をもった。下着に収まらず、ぼるん、と大きくそびえ立ったそれは、相変わらずの凶悪さを持っている。 「あっ……」 「吾亦紅……」  ぴた、と男根が僕の蕩けた秘部にあてられて、僕の体はゾクゾクと期待に震えた。櫨はどんな顔をして、この凶悪な男根を勃たせているのだろう――気になって顔をあげれば、櫨は――瞳を涙で潤ませていた。 「櫨、……」  どき、と心臓が高鳴る。  僕を愛した櫨を恨み、櫨を愛した僕を恨み、呪い殺したくてたまらない、櫨という男。誰よりも愛した、櫨という男。今の彼の表情は――一番、僕が見たかったものかもしれない。愛しているのに、苦しい。僕を愛しているからこそ、苦しんでいる、櫨。そう、僕はそんな櫨を求めていた。  愛しているから、僕と同じ気持ちになって欲しかった。 「櫨が僕に残した一生消えない傷は、腹についた傷だけじゃない。櫨に抱かれる悦びも、櫨に愛される幸せも――全部、僕の体と心に一生刻まれている。櫨……苦しんで。どんなに苦しくても、哀しくても……僕を抱いて、僕を愛して。そう――呪うから」 「吾亦紅――……ああ、ずっと、おまえを愛するよ。呪ってくれ、もっと、俺が苦しむように……地獄の果てまで、おまえに囚われ続けるように」  櫨の男根が、僕のなかにはいってくる。みちみち、と熱をねじこまれるこの感覚が懐かしい。いれられる瞬間に声を我慢することが出来たことはないのだが――今日は、声をあげられなかった。櫨に、唇をふさがれていたから。 「んっ……ふ、んー……っ、んー……」  後頭部と臀部を、ぎゅっと押さえつけられる。びくんびくんと跳ねる腰も逃がさんとばかりに押さえつけられるから、快楽から逃げることができない。僕は身動きをとることもできずに、息をすることもできずに――一気に絶頂に昇り詰める。 「あっ、はぁ、はぁっ……はぁ、……」 「はあ、……可愛い、……吾亦紅……」 「はぁ……ふふ、櫨……ばか」  ぎっちりと詰め込まれた櫨の男根が、僕のなかでビクビクと動いている。あまりにも大きくて、肉感的で、挿れられている間ずっと気持ちよくなってしまうのが、櫨の男根。僕の体はこれが大好きだ。これに全身まで衝撃がいきわたるほどに激しく突き上げられ、狂ったように嬌声をあげさせられるのが、大好きだ。数年前まで毎日のようにされていた秘め事が蘇ってきて、僕の体が熱くなってゆく。 「……はぜ、……今日は、一晩中……抱いて」 「ああ、もちろん……吾亦紅、一晩中、おまえのことを愛させてくれ」  僕のあそこが、ぎゅうぎゅうと櫨の肉棒を締め付ける。櫨の息がだんだん荒くなっていって、そろそろ彼の理性も壊れそうだ。  ああ、今夜は――蕩けるような闇が、熱い。 「櫨……一緒に、不幸になろう」  ずんっ、と勢いよく突き上げられ――僕は正気でなくなる瞬間に、自分自身にも呪いをかけた。

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