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鈴懸の章10
「それで……貴方は本当に俺についてくるわけ?」
「おう、そうさ。白百合も言ってたしな。俺がおまえのことをしっかり護ってやるぞ」
部屋に戻って、織は渋々ながらも鈴懸と語らうことにした。詠の働きかけで、家族にも織が旅にでることの了承を得ることができた。あとはこれからどうしていくか、鈴懸と話し合うのみだ。
「一応貴方は……神なんでしょ。神なんかが俺一人に付き合ってふらふらしてていいの」
「別に好きこのんでやっているわけじゃない。おまえを助けて、おまえに崇拝されることで、俺が現界する力を得ることができるからさ。俺は俺のためにおまえを助けるんだよ」
「……感謝はするけど崇拝はしない」
「別に構わない。俺の存在を認識してくれるだけでも十分力になるしな」
これから、鈴懸と過ごす時間が長くなるわけだ。少しは彼のことを知っておく必要がある。
織は人と関わるのが苦手で、自ら相手のことを知ろうとはしないが、今はそんなことを言っている場合ではない。得体の知れない人外に四六時中そばにいられるなんて、しんどいにも程がある。織がたどたどしいながらも鈴懸に話しかけているのは、少しでも自分のなかの彼への拒絶感を減らそうという、織なりの努力だった。
しかし。
「そう、勘違いするなよ人間! 俺は人間なんかに情けをかけるつもりはない。神である俺様がおまえみたいなただの人間を身を削って助けるわけがないだろう! しっかり理解しておけよ、俺がおまえを助けるんじゃない、おまえが俺様のために俺様のそばにいるんだ」
「……ああ、くそ、やっぱりむかつく」
……どうにも鈴懸と織の性格が合わない。というよりも、鈴懸の度の過ぎた「俺様っぷり」は普通の人が簡単に受け入れられるものではなかった。神様であるから仕方ないとはいえ……ここまで「俺様」「俺様」とされると織もさすがにカチンときてしまう。
「俺が捨てたら消滅するしかない神様はちょっと自重したらいかがですかね?」
「はあ、捨てる? おまえこそ俺がついていかなかったら一生妖怪につきまとわれることになるんだぞ」
「……」
「……」
なかなか鈴懸の性格を受け入れられない織、そして織を理解する気もない自分本位な鈴懸。とてもじゃないがうまくやっていける気がしない。
織はこれからの旅に不安を覚えるしかなかったのだった。
鈴懸の章 了
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