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灼の章11

「あっ……」 ――今、見たのは。  は、と目を覚ました織は、今の今まで見ていた映像が一体なんなのかと混乱しそうになった。意識が飛んだような気がして、それから――鈴懸の過去を覗いてしまった。なぜ自分がそんなものを見てしまったのか、と疑問に思ったのもあるが……その見たモノが、あまりにも哀しくて。織は泣きそうになってしまった。  地獄のような孤独。じわじわと人間たちのなかから自分の存在が消えてゆくのを、ただ見ていることしかできない。どうすることもできない孤独が、自分の心を蝕んでゆくのにも、気づけない。いつもヘラヘラと俺様面をしている鈴懸がこんなものを抱えているなんて初めて知った。言葉で何度か聞いたことはあったが、直接見るとその苦しみはあまりにも凄まじかった。 「ん、……う、……」  しかし。今の織に、鈴懸を慰める術はなかった。  未だに意識を失っている鈴懸。その体からでてくる触手に、織の体が弄ばれていたのである。 「な、にこれ……あぁっ……や、……」  ぬるぬるとした触手。粘膜が織の体にぬりゅぬりゅと塗りこまれ、そして全身を触手が這う。着物はかろうじてひっかかっているような状態で、ほぼ裸に剥かれてしまっていた。触手が織の腕を、脚を、腹を……胸を局部をと責めてくる。 「やだ、……きもちわる、……んっ……」  正体不明の、醜い触手。それに体を弄られることに、酷く抵抗を覚えた。敏感な部分を責めてくるため快楽は蓄積されていくのだが……あまりの気持ち悪さに吐き気を覚えた。 「……ん」  織が触手に体を持ち上げられ、身動きの取れない状態にされた、そのとき。鈴懸が、目を開ける。 「……織?」 「す、鈴懸……助けて……」 「……」  ぼんやりと、霞む視界の中に、触手に責め立てられる織。なぜこんな状況になっているのかと鈴懸は首を傾げたが……ぞわ、と胸の中に何かが這いずり回る。 「……甘いこと言ってんなよ、織」 「え……」 ――それは、憎悪のようなもの。どす黒い、感情。  なぜこんなものが急に生まれ出たのかわからない。織が憎くてたまらない。鈴懸は目を細め、織を仰ぎ見て嗤うと、低い地を這うような声で吐き捨ているように言う。 「他人に甘えてんじゃねえよ。今まで他人を遠ざけてきたくせに。自分から、手に入るはずのものを捨ててきたくせに、こういうときだけ甘えてんじゃねえ」 「……す、ずかけ……?」 「――俺が欲しくて仕方なかったものを、おまえは自分の手で切り捨てたんだろ! ムカつくんだよ、おまえ!」  俺は、独りになるのが怖かった。怖かったけれど、何もできなかった。ただ忘れられてゆくのを、見ていることしかできなかった。  それなのに。こいつは。この、織という人間は。自ら人目を避けて独りを望み、そのくせ寂しがりや。俺がどんなに望んでも手に入れられなかったものを自ら捨てて、それでいて自分は辛いとそんな顔をしている――それが、気に食わない。 「う、ぅ――……」  腐り落ちてゆく神社、草木に埋もれてゆく社。そこに佇む、鈴懸。    哀しき記憶と、鈴懸の叫び。それが重なって、織は辛くなって泣いてしまった。  かざぐるまがからからと廻っている。鈴懸の記憶を覗いてしまったのも、鈴懸の叫びに共鳴してしまうのも、咲耶のせいなのだろうか。今までの現象と似ている。妖怪たちの哀しみに心が強く共鳴してしまう。これも、それと同じ――…… 「鈴懸――……あ、ぁ……!」  いや、違う。鈴懸の叫びに切なさを覚えるのは、咲耶のせいじゃない。咲耶の念もたしかに影響しているかもしれないが――この、鈴懸との共鳴はたしかに自分の意思によるもの。鈴懸を救いたいと思ったのは、紛れも無く織の意思だった。  しかし、それを自覚した瞬間に。その気持ちを言葉にする間もなく、触手が激しく織を責め立てた。感情の荒ぶった鈴懸に反応し、鈴懸に取り憑いた灼が織を激しく求め始めたのである。 「はっ……あぁあっ……」  ただ、憶測でしかなかったが。織には、なぜ鈴懸が灼に取り憑かれたのかがわかってしまった。美貌を失い人間から疎まれた灼が、力を失い人間から忘れられた鈴懸に自分と近いものを覚えてしまったのである。だから、鈴懸が心の奥底にしまいこんでいた想いを引きずり出してしまったし、そして鈴懸の感情に反応して触手も動く。  それをわかると。織は気持ち悪いとばかり思っていた触手を、そう思わなくなってきた。この触手たちは、鈴懸の哀しみに反応している。それなら……受け入れられる。鈴懸の哀しみならば、このからだで、すべて……受け入れる。 「んっ……ひ、ぁっ……」  ずるずると触手が織の体を覆い尽くした。顔以外はほぼすべてを覆ってしまったというくらい。腕を頭上でまとめあげ、脚を開脚させ、その状態の織の体を貪るようにして触手が這いずりまわる。 「あっ、あぁあぁ……」  織の乳首に、触手が群がった。ちいさな乳首に争うようにして触手たちが吸い付く。ちゅうちゅうとたくさんの触手に胸を吸われて、織は体を反らせながら甲高い声をあげた。  アソコが、じんじんする。乳首をいっぱい吸われて、体の奥が熱くなってくる。こんなにも醜い触手に犯されてこんな風に感じてしまうのは、おかしい……そう、織も思ったが。でも、これが鈴懸の哀しみならば。そして、灼も救われるのならば……これでいいのだと、納得した。涙を流しながら、甘い声をあげ続けた。 「は、ぁっ……すず、かけ……あっ……あぁッ、……」  見下ろせば、手の甲で目を覆って泣いている、鈴懸が見えた。鈴懸が泣いているのか、灼が泣いているのか、それはわからない。掠れた泣き声が、微かに聞こえる。  苦しい。胸が、締め付けられる。鈴懸の孤独が、あまりにも哀しい。 「鈴懸……俺は、……俺は、鈴懸のこと、見えているから……さわれるから、……忘れないから、……」 「――……」 「だから、……もっと、……して。鈴懸……もっと――」  鈴懸の手が、ずるりと地面に落ちる。現れた鈴懸の瞳が、ぼんやりと、触手に犯される織を映した。虚ろな瞳から、つうっと涙がこぼれ落ち――雫が、光を揺らす。 「あっ――あ、あっ、……あ……!」  がば、と織の脚が大きく開かれ、秘部がさらけ出された。織のものに細い触手が巻き付いて、ぐちゅぐちゅとこすりあげる。そして、先端をぐりぐりと刺激する。でも、根本をぎゅっと締められているから、イクことはできない。そんな責め苦に織の腰がガクガクと震えているなか――ヒクヒクと疼く穴に、大量の触手が群がってゆく。  ひとつ。触手が、織のなかに入り込んでいった。ぬらぬらと粘膜に覆われた触手に弄られ十分に濡れた孔は、意外にもすんなりと触手を受け入れてしまう。細いものではあるがずるるるると一気に挿入され――織の体は、ビクンッ、と激しくのけぞった。 「はぅッ――あ、ぁあっ……!」  なかに入り込んだ触手は、織のなかを探るようにしてぐるんぐるんと暴れだした。ぐちゅぐちゅと激しい音をたてられながら掻き混ぜられ、織のソコはとろとろに蕩けてゆく。  強烈な快楽。ズクズクと湧き上がる熱。織の細く白い腰がかくかくと揺れ動き快楽を逃がそうとするが、体にぎっちりと纏わりつく触手たちがそれをゆるさない。ガチガチに拘束され、動くこともできないまま――織は、触手に犯された。群がる他の触手たちも、織のなかにずぶずぶと入り込んでゆく。 「ひっ、うっ……は、ァッ……あ、」  大量の触手。お腹いっぱいに、織のなかに触手がはいっていった。ぎゅうぎゅうにお腹に触手が詰め込まれて、織の下っ腹はぽこりと膨れている。苦しい、はずなのに。触手は、織のなかにある敏感な部分に吸い付いて、じゅるじゅると刺激しているから――快楽が、優っていた。織はひっくり返るような声をあげながら、体を小刻みに痙攣させて、喘ぐ。  全身を舐め回されるように触手に這いずり回られ。乳首を激しく吸われ。勃ちあがったものにも絡みつかれ、ぬるぬると刺激を繰り返され。そして、なかをぐちゃぐちゃに掻き回される。狂ってしまうほどの快楽を与えられ続け、織は泣きながら声を上げ続けた。息をすることすら難しい、そんな快楽は織を確実に苦しめていた。 「もっ――、……と、……すず、か……け……あっ……ひ、……ぐっ……すず、かけ……もっと、……」  根本を締め付けられ、射精することもできず。中イキを何度も何度も繰り返し、織は意識もうろうとしていた。もはや、拷問にも近い状態。それなのに――織は、鈴懸をさらに求める。灼に慰めを与える。ただ、ただ、彼らの哀しみを、和らげたくて。 「助けて、――助けて、咲耶……」 「あっ……あぁああッ――……」 「助けて、……織」  触手たちにめちゃくちゃにされてゆく、織。それを見上げる鈴懸も。心のなかを、灼にめちゃくちゃにされていた。自分と、灼の心が混ざってしまっている。似通った二つの心が溶け合って、一つになりかけていたのだ。鈴懸の叫びが灼の叫びと合わさって、鈴懸の口から飛び出してゆく。もはや鈴懸の叫びなのか、灼の叫びなのかわからない――そんな状態になっていた。  しかし、確実なのは。その叫びが、孤独に喘ぐ哀しき叫びであるということ。鈴懸のものであっても、灼のものであっても。それは、悲痛なものであるのには間違いなかった。 「咲耶、……咲耶――寂しい、……寂しい、寂しい」 「はーっ……はー、……あ、ぁッ……あ、あ」 「織――、織……織、」 「あー……あ、……あー、あ……」  ずぶ。ずぶずぶ。ぐちゅぐちゅ。触手が、激しく抜き差しされてゆく。ぶるんぶるんと暴れるようにして織のなかを掻き混ぜ、そしてはいったり出て行ったりを繰り返す。一度ずぶんっと奥を貫かれる度に織はイッてしまうから、もう、何度イッているのかわからなかった。  そうして体をいっぱいいっぱいによじりながらイッている織を、触手は徐々に鈴懸の体に近づけてゆく。ぐったりと横になり涙を流す鈴懸のすぐそばまでもってきて、そして織を差し出すようにほどけてゆく。ぬるぬると粘膜で濡れた織の体が徐々に晒しだされていき……それを見た鈴懸はぼんやりとしたまま、体を起こした。 「織……」  鈴懸の手が、織へのびる。本能で求めるように、鈴懸は織を引き寄せた。触手はそんな鈴懸の熱をいざなうように、織の脚を広げてみせる。犯され続けふやけてとろとろになったソコをくぱぁとひらき、鈴懸を誘った。 「きて、……すず、かけ……あ、……あ、……」  数本の触手は、はいったまま。そのまま、織は鈴懸を求めた。触手はそんな織の意思を汲み取るようにして、だらりと座り込む鈴懸の上へ、織を下ろしてゆく。くたりとして壮絶な色香を放つ織が、自分の膝の上に乗ったものだから……鈴懸は、何にも抗えず、織のなかへ猛りを挿れて行った。 「はァッ――あ、……すずかけの、……はいって、き、……た……ぁ……」  触手と、鈴懸の熱。それを同時に受け入れて、織は天を仰ぎ見るようにして硬直し、達した。ぐぐ、と強烈な圧迫感がせり上げてきて、息が詰まるくらいに気持ちいい。ちかちかと視界がしらんで、意識が飛びそうになる。 「織、……」 「は、……は、……つ、いて……すずかけ、……ついて……」 「……はぁ、……織、……」  鈴懸は織の目を見ているのか、見ていないのか。その虚ろな瞳ではわからなかったが、たしかに織を求めていた。ぎゅっと織を抱きしめると、体をゆすりだした。向い合って座り、抱きしめあう体勢で繋がっているため、鈴懸が揺れれば織の奥にぐいぐいと熱が当たる。最奥に鈴懸の熱を感じた織の体は、ぎゅうぎゅうとなかにはいっている触手と鈴懸の熱を締め付けた。 「あっ、ぁあっ、はァっ、ん、っ、んっ、」 「織、もっと、……」 「はぁ、うっ――あっ、ふかい、っ……あぅっ……!」  無我夢中で、鈴懸は織を貪った。激しく織の奥を突き上げて、それはまるで自分の熱を織に刻みこむように。イッてもイッても射精することのできない織は、激しく突かれ続けて、頭のなかが真っ白になっていた。自分が何を言っているのかもわからず、蕩けた声を発するばかり。  ぐちゃぐちゃになりながらまぐわう二人。そんな二人に、一旦はほどけた触手が絡みつく。触手は織を抱く鈴懸ごと巻き込んで、二人は触手に纏わりつかれながら求め合った。 「はぁっ、あっ、アッ、あ――!」  熱く、熱く。どろどろになりながら腰を振って。とうとう、鈴懸も達する。  鈴懸が吐精すれば、触手たちも同時に精液のようなものを吹き出した。織のなかには大量の白濁が注ぎ込まれ、一気に満たされてゆく。 「~~ッ……!!」  鈴懸はぐっと奥に熱を押し込み、織の奥の奥の方まで精を注ぎ込んだ。そうすれば織はぎゅっと鈴懸の背中に爪をたてて、声にならない声をあげながら硬直する。そして――ガクン、と堕ちるようにして意識を失ってしまった。  鈴懸も意識朦朧としながら、織に覆いかぶさるようにして倒れこむ。触手がそんな二人を受け止め……そして、顔ごと包み込んでゆく。 「織……」  触手に飲まれてゆく。このままでいたらどうなるのだろう……そんなこと、鈴懸にはわからなかった。しかし、動くことはできなかった。  織が何度も何度も名前を呼びながら甘い声をあげていたことを思い出し、胸が満たされてゆく。意識が、薄らいでゆく。  ああ、ここに、自分の名前を呼んでくれる人がいる――そう思うと、胸を締め付ける孤独感が、溶けてゆくような気がした。そんな孤独感が生んでいたきりきりとした痛みが消えてゆくと共に――鈴懸の意識も、飛んでしまった。

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