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灼の章15
「あ、おかえりなさい、織さま……と、」
屋敷に帰ったのは、数日後の夜。歩きくたびれてへとへとになった織を、詠が迎えてくれた。しかし、詠の表情は優れない。織を見るなり、わずかに表情を陰らせたのである。
「……鈴懸様、でしょうか」
「えっ」
織は詠の言葉に驚き、目を瞠る。詠の視線をたどっていけば……たしかに、隣に立っている鈴懸にぶつかった。
屋敷を出る直前に、鈴懸を見たと言っていた詠。再び見ることができたのだとすれば……間違いない。鈴懸の力が、戻ってきている。
「おう、俺が見えるようになったか、娘。いかにも、俺が鈴懸だ」
「……この前はとんだご無礼を……私は、詠と申します。織さまの……その、……護衛をつとめさせていただいております」
「……? なんだ、自信なさげに。もっと堂々とすればいいだろう。あ、そうか、俺様の神々しさに怖じ気付いたか娘!」
「……そう、ですね……鈴懸様があんまりにも麗しいから、少し緊張しているのかもしれません」
高らかに笑いながら、鈴懸はちらりと目を細めた。鈴懸から目を逸らして、瞳に影を落とす――そんな、詠の魂をのぞき込むように。
「……ふん、まあいい。ところで娘。白百合はどうした」
「……えっ、……さ、さあ……最近、一緒にいないのでわからないですけど……」
「あ? そうなのか? へえ……まあ、いないならいないで別にどうでもいいんだけどな」
鈴懸は「いこうぜ」と言って、織の手を引く。織はなにやらいつもとは様子の違う詠が気がかりで仕方なかったが、鈴懸がぐいぐいと強引に手を引いてくるものだから、声をかけることもできず、詠の前から去ることとなってしまった。
体の疲れもある。明日になったら、少し話を聞いてみようか……そんなことを思い、織はまずは浴室へ向かうのだった。
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