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灼の章16

「あれ? 着いて来るの?」  汚れた体を綺麗にして、浴室からすっきりとした顔をしてでてきた織。このまま寝室に向かって、泥のように眠ってしまいたい……そう思った織は、浴室の外で待機していたらしい鈴懸が自分の横を着いて歩いてくるのが気になった。今日は、一緒に寝るつもりなのだろうか。もしかして……体に、触ってきたり。あわよくば、抱かれてしまったり……藍摺の山で、鈴懸と交わした会話を思い出し、織は顔を赤らめた。  『触ってもいい』と言ったのは、自分だ。でも、いざ、その気配を感じると緊張してきてしまう。 「悪いのか」 「わ、……悪く、ないけど……」  ちら、とこちらを見てきた鈴懸に、織はかあっと顔が熱くなるのを覚えた。その、瞳は。灼熱のように、熱かった。熱視線に射抜かれて、織は全身の血が茹だるような心地だった。……ああ、抱くつもりなのか。これから自分は、鈴懸に抱かれるのか。彼の意思で、彼は、抱いてくるのか。  面映ゆい。恥ずかしい、のに、嬉しいような。なんだか、心の整理がつかない。  自分の部屋までたどり着いて、織はごくりと唾を呑んだ。扉を開ける手が震える。鈴懸が、ドアノブにかけられた織の手をじっと見ている。 「……あれ?」  ドキドキとしながら扉を開けて。この扉を開けた瞬間に自分は鈴懸に何をされるのだろうと期待をしていたから。その先にあった光景に、織は唖然としてしまった。 「……部屋、間違ってます?」 「何をいっておる。今日からここが妾の寝室だ」 「し……白百合さま!? ここは俺の寝室ですけど……!」  織のベッドの上に、寝間着を着た白百合。長い髪の毛をさらりと揺らし織を見つめてくるその姿は、いつもとは雰囲気の違う、隙だらけの少女の姿だ。 「そういうことだ、鈴懸はどこかにいけ」 「はあ!? 織はどうするんだよ!」 「織はここで妾と共に寝ればよい。ここは織の寝室だからな」 「織と同衾するのは、俺だ!」 「妾の決定は絶対だ。失せろ、鈴懸」  白百合は高笑いをしながら、鈴懸を威嚇していた。鈴懸は苦虫を噛み潰したような顔をして、白百合をにらんでいる。  ……これは、今日は白百合と一緒に寝ることになりそうだ。なにがどうしてこんなことになっているのかはわからないが、織はなんだか残念な気分になってしまい……そして、そうして残念に思っている自分に疑問を抱いた。

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