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覚の章5
――大広間。酒を酌み交わし、宴会状態になっている狐たち。しかし、彼女たちはどこかそわそわとしていた。時間を気にしては、「そろそろよ」なんて言っている。
「――待たせたな、側室たちよ!」
「来たわ! 玉桂様の新たな嫁よ……! 結婚される前に、私たちの目で玉桂様の嫁にふさわしいか、見極めなくては!」
忙しない狐たちの注目を一気に浴びたのは、堂々とした声をあげて大広間に入ってきた玉桂。狐たちのうっとりとした視線を集めながら、玉桂は狐たちの前方に設置された舞台の前までやってくる。舞台には幕が下りていて、舞台に何が準備されているのかは不明だ。
「側室達、きっとおまえたちは厳しい目で私の嫁を判断しようとするだろう――しかし、今回の私の嫁は――断言する、あまりにも美しい! きっとおまえたちもため息をつきながら見ることしかできない。さあ――さっそく見てくれ、私の嫁――咲耶だ!」
玉桂が大声で宣言する。ざわざわとざわめく狐たちの視線が、一気に舞台に集まった。幕がゆっくりとあがって――舞台が、徐々にあらわになっていく。
「――まあ……!」
現れた、「玉桂の嫁」。それに狐たちは思わず吐息を漏らした。
天井から吊るされた真紅の縄で手首を頭上に縛られた、織。乱された着物ははだけて、隠れているのは腰の部分だけ。大きくあらわになっている太ももはなにやらびしょびしょに濡れていて、現在進行形で液体が脚を伝い、足元に水たまりをつくっている。織は脚をがくがくと震わせながらも縛られているため座ることもできず、必死に立っていた。
「なんて淫らなんでしょう……美しいわ……!」
「ま、まだわからないわよ、あれくらいで玉桂様の妻になど……!」
狐たちは現れた織を見て、一様にざわめきだす。そのあまりの淫靡さにため息を漏らす者、嫉妬の視線を向ける者。反応は様々であったが、その織の姿が狐たちの興味を強くひいたのは間違いがなかった。
玉桂はそんな狐たちの様子に、ご満悦のようだ。織の側まで意気揚々と歩み寄っていき、そして狐たちに見せつけるようにして――織の背中をつうっとなで上げる。
「あっ、うぅ……!」
その瞬間。織は顔をかあっと紅く染めて、びくんっ、とのけぞった。ぐっとさらけだされた喉仏がひくんと震え、そして汗が伝う。
「ふふ、さあ……みせてやれ、咲耶。この数日、私に調教されつくしたその体を。おまえの体がどれほど私に従順なのか、示すがいい」
「あっ……」
後ろから胸を、そして腹をなでられる。玉桂の大きな手がその滑らかな肌を這えば、織の体は艶めかしく揺らめいた。「いや……」と言いながらも顔を蕩けさせて腰をくねらせ、そして脚をもじもじと擦り合わせる織はあまりにもいやらしい。
玉桂が着物に隠れた織の腹を両手でくるくると撫でていけば、徐々に帯がゆるんでいって、着物が剥がれてゆく。やがて……するん、と着物は織の足下に落ちてしまって、織は全裸になってしまった。
「……!」
狐たちの視線が、現れた織の下腹部に。
織の可哀想なくらいに堅く勃ちあがったものの根本が、紐で縛られていたのだ。
「イかせてください、と言えばこの紐をほどいてやるぞ? 咲耶?」
「……う、ぅ……」
――織は、この舞台にあがる数時間前から、こうして性器の根本を縛られ、イクことができないようにされていたのだ。そして、その状態でしつこく体をまさぐられ、イきたくてもイけない、その感覚をずっと与えられていた。
織の体力はもう限界、しかし快楽は止まらない。それでも。
「いい加減私のものになればいいのに、咲耶。そうすれば……至上の幸福を得られるぞ」
「い、や……すずかけ、……すず、かけ……」
「生意気な。あとどれくらいの間抵抗できるかな?」
織のなかの鈴懸への想いが、すべてを抑制する。どんなに辛くとも、心だけは玉桂に渡したくなかった。
「は、ぅ……」
ぽろぽろと涙を流し、それでいて淫らに体を揺らす。玉桂のごつごつとした手が白く艶めかしい織の体に妙に映え、狐たちの目を釘付けにする。たくさんたくさん可愛いがられた織の体は、完全に雌の体になっていて、玉桂の愛撫を悦んで受け入れていた。玉桂の手が体を滑るたびに、織の体はくねくねといやらしく動き、そして織の唇からは、甘い吐息がこぼれてゆく。
「淫らだわ……すごい、……」
「たまらない……!」
やがて狐たちは、織に完全に感心し始めた。舞台の周りにわっと集まってきて、楽しげに玉桂にいじくられている織を眺めている。気分が盛り上がったらしい一部の狐たちは楽器まで取り出して、玉桂と織がまるで芸を演じているかのようだった。
「ふふ、咲耶。うたって見せろ。狐たちを魅了するがいい」
「んぁっ……! あぁっ……あっ……ふ、……ぁあっ……!」
玉桂が織の乳首をぎゅううっとつまみ上げる。そうすれば織はがくがくっと脚を震わせながら、胸を反らせてのけぞった。ぷるんぷるんとふるえる織のものが、なんとも切なげだ。
狐たちは敏感に反応する織の姿が善いのだろう。わーっと歓声をあげながら、拍手をする。
「すてきよ、咲耶! もっと乱れて!」
「あっ、あぅっ、あぁーっ……! はっ……あ、……あーっ……!」
「すばらしいわ、なんていやらしいの……!」
「あぁっ……おゆるし、ください……たまかつら、さま……ゆる、し……あぁっ……! あぁー……!」
ぎゅっと引っ張られた乳首が、くりくりと指の腹で揉まれている。織は顔をとろとろにして、唇からだらしなく舌をはみださせながら、甘い甘い声をあげた。
もう、体は完全に堕ちている。そんな織を見つめながら、玉桂はほくそ笑む。この程度の快楽は、まだまだ序の口だ。もっともっと、織の心を破壊してやろう。少しずつ、少しずつ……織を追いつめて。然るべき瞬間に、織を奈落へ突き落とすのだ――玉桂は、織のことを手のひらの上で転がしていた。今の段階での織が、抵抗を可能にしていることなど、わかっていた。……どこまで追いつめれば織が壊れるのかも、わかっていた。
「ゆるして、だと? そうか、ではイかせてやろうか?」
「ふ、ぁ……?」
玉桂は、織で遊んでいた。ここまで織が耐えていることに驚きはしたものの……その織の抵抗など無駄であると、はじめから決定していた。
「イけ。イきなさい、咲耶。イってイって、壊れてしまえ!」
「待っ……まだ、紐っ……ひっ、やっ、あっ……あ、あ、あ、ああ、」
玉桂は織の胸を鷲掴みし、腹の上からごりっと拳で前立腺を刺激した。そして、耳元で「イケ」と命令する。織のモノの根本を縛った状態で、だ。物理的にイくことを制限されているのに、織の脳に「イク」ように命令を吹き込んだのである。
織の視界が、ちか、と白に染まる。頭のなかがもう、快楽でいっぱいになって、なにも考えられなくなった。
「ひっ……あ、ぁ――――!!!!」
ぐりぐりぐりぐり、と強く、前立腺を刺激される。織は声にならない悲鳴をあげて、体を痙攣させた。織を拘束する縄をぎちぎちと音をたたせながら織は藻掻いたが、逃げることなどできない。
「ひぅっ――あ、……あぁ――や――ぁ、あ……!」
イきたくない、イきたくない、イきたくない――でも、でも……
もう――だめ……
「い、かせてください……! たまかつらさま、……イかせてください、……たすけてください……!」
「ふ――」
限界に達した織。織に懇願され、玉桂はそれはそれは愉快そうに嗤った。
「いい子だ、咲耶。さあ――楽にしてあげるよ」
ふーふーと辛そうに息をする織のモノを縛る紐を、するりと解いてゆく。紐から解放され、ソレはぴくぴくっと嬉しそうに震えた。織の表情から苦悶の色が抜け、恍惚と頬が染まってゆく。
「いっぱい、出せ。咲耶」
「あ……」
玉桂が織の脚を抱え上げて、大きく開脚させた。狐たちにびちょびちょに濡れた股間を見せつけ、そして――
「イクッ――あっ……イクッ、いくッ、あぁあ――」
織は、ぷしゃーっ、と激しく、潮を吹いた。
「あっ……あ……」
哀しげに泣きながら、織はイッた。狐たちが拍手をしながら歓声をあげ、織が見事な潮吹きをする様子を眺めている。舞台の上で、賑やかな音楽が鳴るなかで。織は注目を浴びながら、イッたのだった。
「ちゃんと言えたからな。もっと善くしてあげるぞ。ふふ、私の嫁になるのだから、私好みの体に仕立て上げてやる」
「あ――……」
もう――抵抗できなかった。快楽に、負けてしまった。快楽に負けてしまった自分が、鈴懸に淡い想いを抱くことなどもう赦されないような気がして、織は無理やり自分のなかに在る玉桂への嫌悪感を押しつぶす。
玉桂の堅く熱いものが織のぐずぐずになった孔にあてがわれ、織は心のなかで悲鳴をあげた。しかし、体は従順に悦びの声をあげる。ぞくぞくっと全身が快楽で鳥肌がたち、孔が嬉しげにひくひくと疼き、果ては潮吹きの勢いが増す。
「私を請うがいい、さあ、咲耶!」
「……っ、――……」
(鈴懸……さよなら、鈴懸)
「たまかつらさま……いれてください……私を、貴方のモノに、してください……!」
――口にしてしまえば。全てが、どうでもよくなった。
ずんっ、と勢い良く突き上げられ、織は甲高い悲鳴をあげる。そして、激しく激しく奥を何度も突かれ、その度に潮を吹いた。
「あっあっあっあっ」
「ほら、もっと啼け! 咲耶!」
「いいっ、もっと、くださいっ……! あぁっ!」
「気持ちいいだろう? ほらもっとだ、もっと声をあげろ!」
「きもちいいっ、きもちいいですぅっ、たまかつらさまぁっ……! あぁっ、イクッ――」
声をあげるたびに、自分の中の鈴懸への想いが壊れてゆくような気がした。それでよかった。こんな自分は、鈴懸みたいな美しいひとには、ふさわしくない。あのひとへ口付けをして欲しいと願うなんて、穢らわしい。
「たまかつらさまのモノにしてぇっ――……!」
なぜ、こんなに泣いてしまうのか、わからない。中出しされて、こんなに体は悦んでいるのに。
楽しそうに笑う狐たちと、生暖かい玉桂のものの感触。意識が遠のいていって、それらの光景から自分が離れてゆくような気がした。
意識が途絶える瞬間。月の夜に、鈴懸と口付けをし損ねたときの、彼の少し残念そうな笑顔を思い出して。涙の最後の一滴が、瞳からこぼれ落ちた。
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