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よろしく、先生
呆然とする俺は混乱しながらも、元生徒の新田と校内を回る。
その時に俺の様な先生になりたいと思い、教師の道に進んだ事を聞いた。
ちなみに「教師以外でなりたかったものは?」と聞くと「先生に会ってから教師以外の道は考えられなくなったし、何が何でも絶対教師になってた」と言われて、純粋に嬉しかった。
あんなに【先生】を嫌っていた新田が【先生】になりたいとまで言ってくれて、本当に先生になっただなんて・・・。
俺は嬉しさに涙腺が緩みそうになる。
「ところで高坂先生」
「ん?どうした?新田?」
「彼女出来ましたか?」
「お前喧嘩売ってるのか?」
緩みかけていた涙腺は一瞬で戻り、俺はバインダーを持つ手に力が入る。
さっきまでの感動を返して欲しい。
「その反応から見て、いないと」
「お前昔から思ってたけど腹が立つ事言うよな!?」
新田は本当に俺の事を尊敬してくれているんだろうか。
「悪かったな今はいなくて」
「今は?」
「・・・半年前に別れてそれっきり」
「そうですか。安心しました。変わってなくて」
「そこは安心されたくなかったんだけどな!」
こんな感じで雑談をしながら校内を回り終えた俺らは保健室に向かう。
「懐かしい。ほとんど変わってないですね」
「まあな。と言っても一時期違う学校にいたから機材とか配置とかちょいちょい変わってるけどな」
「もしかして県外とかですか?」
「いや、県内。隣町のお嬢様学校とか」
「・・・・・・へぇー」
「普通に勤務してたからな!?大体花の女子高生に罪を犯してまで手を出すわけないだろ!?」
俺は冷やかな視線を送る新田に反論しつつバインダーを机に置き、お湯を沸かす。
「まあそうですよね。彼女とも長続きしてなかった先生が女子高生に相手にされるとは思いませんし」
「俺の事嫌いだろ!?本当は嫌いだろ!?」
「好きですけど?」
「嘘つけ!」
俺はカップを2つ用意して珈琲と紅茶を淹れる。
そして紅茶に砂糖1つとミルクを入れて渡す。
「・・・覚えててくれたんですか?」
「当たり前だろ?1年とはいえずっと一緒にいたしな」
新田は目を丸くする。
「・・・そんなんだから、先生を・・・」
「なんか言ったか?」
「なんでも」
そして、ぷいっとそっぽを向く。
俺はスケジュールを確認しながら珈琲を飲む。
「それ飲み終わったらホームルームだから、お前の担当の教室に行くぞ」
「はい」
「そんな緊張しなくても大丈夫だって!お前んとこのクラス 皆いい子だし俺が保証するから」
さっきとは打って変わって急に身体が固まる新田に笑いながら頭を撫でる。
「こ、高坂先生!?」
「大丈夫。俺がついてるから。安心しろ」
愚痴も後でいっぱい聞いてやるから、な?
とわしゃわしゃとわざと乱暴に撫でる。
新田は顔を真っ赤にして手を払った。
「ちょっと!せっかくセットしたのに!どうしてくれるんですか!」
「お前、変わってないな」
俺は笑う。
あれから大人になったとはいえ、俺の知ってる新田がいて良かった。
「別に背伸びしなくてもそのままのお前が一番いいんだから。その調子で頑張れよ」
ふんっ!と新田は髪をささっと整える。
丁度授業終了のベルが鳴り、新田はそのまま保健室を出た。
ちなみにこっそり後ろのドアの窓から見守っていたが、その心配は全く必要なく、常に堂々として 最後に笑顔を振りまいた新田は一瞬にして『大人でクールだけど笑顔が可愛い!』と人気者になっていた。
・・・羨ましい限りだと俺は思った。
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