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あきれました、先生

「・・・だから、今日は・・・。ごめんって。でもこの前は・・・はいはい、また今度埋め合わせするから。じゃあ」 ピッと俺は電話を切って、息を吐く。 「・・・彼女ですか?」 「うおっ!?」 ビクッと肩が跳ねる。 振り向くと銀フレームの眼鏡をかけた新田が呆れた顔をしていた。 「お前な、入る時にノックぐらいしろよ」 「しましたよ?先生 全く気付いていませんでしたけど」 溜息を吐きながら新田は椅子に腰掛ける。 あれから数ヶ月経ち、まだ初々しいがだいぶ【先生】に慣れてきた新田はすっかり学校のアイドルのような存在になっていた。 噂ではファンクラブがあるらしい。羨ましい。 「あと彼女じゃなくて、姉貴だよ。今日残業するからって無理って言ったら怒られた」 「・・・先生にお姉さんがいるだなんて知りませんでした」 「あれ、言ってなかったか?あんまり似てないけどな」 俺はそう言って席を立つと、珈琲と紅茶を淹れた。 「お前はここにいていいの?他の先生に昼飯誘われてなかったか?」 「大丈夫です。毎日誘ってくれるのはありがたいですけど、ここが落ち着くので」 「嬉しい事言ってくれるな」 俺と新田はお互い向き合うように座り、弁当を食べる。 「なんか不思議だな。まさかお互い先生になってこうやって飯食う日が来るなんて」 「そうですね。先生と生徒の時は何度かありましたけど」 「お前が赤点スレスレの点数取った時とか夏休みに勉強会やったよな。懐かしー」 「ちょっと、恥ずかしい事言わないでください!」 「いつものお返しだ、バーカ」 俺は笑いながら頭を撫でる。 「和雅先生!」 「カズくん先生!」 そこへ女子生徒が入ってきた。 ・・・確かに名前は『和雅(カズマサ)』だから間違ってはないけど。 「おいおい、先生に対して名前呼びはないだろ?」 「えー?先生ってついてるだけまだいいじゃん?ってあああ新田先生っ!?えっ、なんでここに!?」 「ヤバっ、新田先生!近くで見ても超イケメンなんだけど!?」 「・・・お前ら、態度変えすぎだろ」 新田はこの子達は?と言いたげにこっちを見る。 「よく保健室に遊びに来る子で、たまに勉強教えてるんだよ。それで今日はどうした?」 「和雅先生、聞いてよー!古典の間宮がテストの成績悪かったら宿題倍に出すって!マジ鬼じゃない!?」 「それは理解する努力を怠った奴が悪いから自業自得だろ」 「だからカズくん先生助けてよー!マミやんの授業ムズすぎて予習復習してもついてけないんだもん!」 二人は俺が着てる白衣の袖をグイグイ引っ張る。 ・・・無言でこっちを見てくる新田の視線が痛い。 「わかったから離せ!でもその代わり80点は取れよ?」 「えぇ!?カズくん先生厳しすぎんだけど!」 「俺が教えるんだからそれぐらい取れ」 むすっとしてる二人にポケットに常備していた飴玉を渡す。 「大丈夫。お前らなら取れるし俺が分かるまで教えてやるから。だから明日の放課後、各自教科書とノート、あとわからない所をまとめて持ってこい」 「やった!ありがと、カズくん先生!」 「和雅先生、また明日ね!約束したからね!」 二人はぱあっと顔を明るくして、上機嫌で保健室から出て行った。 嵐が過ぎ去ったあと、俺はげんなりする。 「・・・自ら仕事を増やしてしまった」 これは当分 深夜コースだな。 「高坂先生は誰にでもあんなんだったんですね」 「新田?」 明らかに不機嫌な新田に俺は首を傾げる。 「女子高生にあんなに鼻の下伸ばしてデレデレして気持ち悪っ」 「は?デレデレなんかしてねぇよ。そりゃあアイツらは可愛いけど・・・」 「ほら!可愛いんじゃないですか!」 「そりゃあ誰だって頼って来てくれたら嬉しいし、可愛くも思えるだろ?」 「へぇー!高坂先生は頼ってくれるなら誰でもいいんだ?」 俺は珈琲を一口飲んで、疑問をぶつける。 「新田。お前 なんでそんなに怒ってんだ?」 新田はますます不機嫌な顔で俺を睨む。 「怒ってませんけどっ!?」 「でも明らかに・・・」 「煩いなぁ!黙ってください!!」 保健室中に響くぐらいの声に俺はびっくりする。 新田は我に返って冷静になったのか、紅茶を一気に飲み干して、失礼しましたと教室を出ていった。 (い、今のは何だったんだ?) もしかして、養護教諭の俺なんかより本職の教師として頼られたかったのだろうか? でも新米だからそれも強く言えなかったとか? (うーん・・・わからん。新田の事がわからん) 俺の中では新田はいつまでも俺の可愛い生徒だし、それはアイツが教師になった今でも変わってない。 でも、その子供扱いならぬ生徒扱いが原因だとしたら? 「・・・とりあえず過去問でも見るか」 俺は残りの珈琲を飲み干し、自分のデスクに向かった。

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