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第100話
広瀬は、地面に転がる懐中電灯で二人の後ろ姿を照らしたが、その動きは早く、すぐに見えなくなった。追いかけるには、身体が言うことを聞かなかった。
4人の男が、盛大な音を立てながら上から降りてくるのが見えた。それぞれ手には大きなライトをもっていて、蛍光色の防水のコートをきていた。
そこで、広瀬は、自分の様子があまりにもひどいことに気づいた。全身の痛みをこらえてスラックスをはきなおし、シャツのボタンをはめた。立ち上がって銃は腰の後ろにさして隠した。
いくつものライトで照らされる。「落ちたのか?」と聞かれる。
「足を踏み外してしまって」と広瀬は答えた。
「怪我は?」
「大丈夫です」と広瀬は答えた。
4人の男は、地元の人間で、早朝から仕事にでるところだったのだと説明してくれた。山道を移動していたら、広瀬が乗っていた車があり、ライトも、エンジンもついていたのに人が乗っていなかったので心配して探してくれたのだという。
「パンクを直そうとしてたのか?」と聞かれた。
「はい」と広瀬は答えた。
男たちの後ろについて、斜面をよじ登る。しばらくすると、道路に出た。
そこには広瀬の車があるだけで、広瀬を襲ったあの黒い車はなかった。
男の一人が、パンクをみてくれている。そして、手早く応急処置をしてくれた。
「運転はできるか?」と聞かれた。「その左腕、かなり痛そうだけど、なんなら病院に連れていこうか?」
「大丈夫です。病院には自分で運転していきます」と広瀬は答える。そして、丁重に礼を言った。彼らが来て探してくれなければ、殺されていただろう。
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