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第103話
「広瀬さん、広瀬さん、」声をかけられた。
はっと目を開けると、石田さんが心配そうに自分を覗き込んでいる。
「こんなところで、大丈夫?」と言われた。
広瀬は、立ち上がろうと、壁に手を置いた。石田さんが来たということは、今は朝の8時過ぎか。
「耳のところ、どうしたの?怪我をしているの?」と聞かれる。心配そうな声だ。「弘ちゃんはいないの?」
「東城さんは仕事です。この怪我は、崖から落ちてしまって」と広瀬は説明した。「病院に行きます」
「崖って、」と石田さんはとまどっている。だが、追求はしてこなかった。「動けるの?救急車呼ぶ?」
「救急車はいりません。動けはします」と広瀬は答える。
「じゃあ、私の車で行きましょう」石田さんはそういうと、ハンドバックからスマホをとりだし、どこかに電話をかけ始めた。
大井戸署に病院に行くから遅刻すると電話をしなければ、と広瀬は真面目に考えた。
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