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第105話
東城が夜に家に戻ったら広瀬はいなかった。かなり遅い時間なのに家の中はガランとしている。どこにいっているのだろう。大事な話をするつもりだったのに。
束縛するつもりはないが、理由もわからずどこにいったのかもわからないのはどうしても気に食わない。
いらつきながら東城はエアコンをつけ風呂に湯を張った。
大きな浴槽で手足を伸ばし湯につかっていると、シンとしているのが気にかかる。
静かなのはいつものことだ。広瀬は、家の中でテレビも音楽もつけずにいる。話もほとんどしないから広瀬がいてもいなくても家の中は静かなのだ。だけど、彼が家にいるのといないのとでは大違いだ。
きれいに伸びた背筋や優雅に動く手を見ているだけで、穏やかな気持ちになれる。近くにいる彼の腰に腕を絡めてキスをしようとすると、必ず受け入れてくれる。そんな時、灰色の美しい目は自分を映している。
仕事で遅いのはかまわないし、止めようがない。
だが、今は彼の父親や実験に関係した事件が進んでいる。連絡もなく帰ってこないと、一人で何か危険なことに首を突っ込んでいるのではないかと気にかかる。
風呂を出てタオルで髪を拭きながらリビングに行った。ここでも音がないのが気にかかり、テレビのスイッチを入れる。
しばらくしてニュースが始まった。国内政治、海外情勢の後、短い国内ニュースになる。
何本かのニュースの後は、すぐに次の話題に変わった。それからスポーツニュースに切り替わっていく。
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