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第106話
広瀬の居場所を探さなければと思いながら、歩き出した時、がちゃりと音がしてリビングのドアが開いた。広瀬がコートの襟を立てた姿で入ってきた。東城と目が合う。
「おかえり」と言った。遅かったな、とか、どこ行ってたんだとか言いそうになったが、以前それで揉めたので自重する。
咎めるのではなく別な言い方があるだろう。例えば、こんな遅くまで外にいて心配していたんだけど、とか。いや、相手は若いお嬢さんではなくいい年をした成人男性なのだから、何を心配することがあるのかと言われそうだ。
かける言葉を探している間に広瀬は東城にうなずき、すぐに目をそらしてリビングを出ていこうとした。
「あ、広瀬、ちょっと」
手を伸ばして肩に触れ、出ていこうとするのを止めようとした。
「あ!」悲鳴に近い声が上がり心底びっくりした。
そんなに強くなかったはずだ。
広瀬が膝をついて動けなくなっている。顔色が青い。
「どうしたんだ?」
あわててしゃがみこんで顔を覗く。
「怪我してるのか?」
左の肩か。でも、こんな痛がるなんて、よほどの怪我だ。だが、なぜそんな怪我を。
広瀬はうなずいた。
「怪我ってなんだよ」思わず声が大きくなる。「どこで、どうしたっていうんだ?!」
「山で」と広瀬は言った。彼は顔をあげる。「斜面から落ちて、木にぶつかってしまったんです」
「はあ?!なんだ、それ?!」
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