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第107話
広瀬は息を整えた後、ゆっくりと立ち上がった。
「病院は?」
「行きました」
「どこだよ。ちゃんと治療してないんじゃないのか?」
電話を探す。今からでも診てもらおう。遅い時間だが母親か美音子はまだ起きているだろう。
「東城さんのお母さんのクリニックにいきました」静かな声だ。
電話に伸びた手がとまる。「どういうことだよ」
「朝、石田さんに連れて行ってもらいました」
「聞いてないぞ」そんな重大な話を知らないなんて。
「お母さんに言わないでほしいって頼みましたから」
「なんで?」
「東城さん、忙しそうだったから邪魔したくなくて」
「口止めしたのか」それで自分には何の連絡もなかったのか。自分の母親が広瀬に同調するとは思わなかった。
よく見たら広瀬の耳にも大きな絆創膏が貼られている。どこが痛いのかよくわからないので触ることもできない。
「服脱ぐの、手伝ってもらえますか」と広瀬はあくまでも冷静な声で言った。
広瀬が腕を伸ばしてくる。
できるだけ痛めたところを動かさなくてよいように、東城は広瀬がコートとジャケットを腕から抜くのを手伝った。
慎重に慎重に、できるだけ痛むところに触れないように服を脱がせていく。広瀬は東城に身を任せている。
それからネクタイを緩め首からとり、ワイシャツのボタンをはずしてやる。
「着るときはどうしたんだよ」
「石田さんに協力してもらいました」
「なんでもしてくれるんだな」不満が口調にあふれてしまう。
ワイシャツとアンダーウェアを脱がせる。
見慣れた彼の裸体だ。白い滑らかな肌と均整の取れた身体。何度となく指で舌で可愛がってきた彼の姿。もう、自分のものと等しいくらいよく知っている身体だ。
予想はしていたもののひどい。左肩から腕、胸、腹に湿布を貼って、肌は擦り傷だらけだ。他もあざだらけでところどころ青黒くなっている。
「背中は?」
肩越しに後ろを覗き込むと、そこにも湿布が貼ってある。
上半身裸になると、広瀬は東城に礼を言いのろい動作でスラックスを脱いだ。靴下を脱ごうとして苦戦しているので、前にしゃがんで抜いてやった。上半身に比べ足はきれいだ。
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