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第108話
「風呂に入ってきます」
広瀬はそう言いながら浴室に向かう。東城は後からついていった。
「風呂にはつからない方がいいんじゃないか。シャワーだけにした方が」
「そうします」と広瀬はうなずく。
脱衣所で振り返ってきた。「一人で入れますよ」と言う。
黙って首を横に振ったら広瀬はそれ以上は何も言わず身体の湿布をはずしだした。
「お前」思わず声が出た。単に転んでぶつかった程度の怪我じゃない。執拗に殴られたような跡だ。
ふいに男が広瀬の身体を犯そうと乱暴する想像が頭の中に湧き上がってきた。
大きな体躯の男が、細い広瀬の身体を押さえつけ殴って痛めつけ、抵抗する力を奪い、欲望のままに強引に彼を奪い取るのだ。どうしてそんなイメージが頭の中に浮かんだのか、そのことに狼狽した。
そして、すぐに、まさか、と思う。そんなことあるわけがない。だけど、この様子、ただ喧嘩しただけの傷なら正直にそう言ってもいいはずだ。
「誰かに、乱暴されたのか?」疑念が隠せない。問うた声が低くなる。
広瀬の無感情な灰色の目がこちらをむく。「いいえ」と彼は機械的に言った。よどみない口調だ。でも、これはいつものことだ。本当か嘘かはわからないのだ。
広瀬は黙って浴室に入り、シャワーを使いだした。
東城は、自分も衣類を脱いで中に入った。
「洗ってやるよ。じっとしてろ」と彼に言うと、大人しく従った。
シャワーの湯量を少なくし、打たれた痛みを感じなくてよくする。広瀬はじっとしていた。首の後ろに温かいお湯をかけるとやっと気持ちよさそうにした。
降れるか触れないかくらいの力で手でなぞり、慎重に洗いながら灯りの中で身体をくまなく見る。上半身は打撲だらけだ。よく見ると下半身も打ち身や擦過傷がある。
「あ、やめ、」
広瀬が嫌がって身体をよじった。尻のスリットに指を入れ、秘所をなぞったのだ。広瀬は動く右手で押しのけようとしてきた。
「今日は、だめです」
「わかってる」確かめたいだけだ。自分以外の誰かが彼に押し入ったのではないか、と。だが、そこは東城の指にヒクッと動いたが、それ以外は変わった感触はなかった。
広瀬は一歩後ずさりした。触れられるのを嫌がっている。手を放し、謝った。
「すまない」
「何を」
「乱暴されたんじゃないかと思って」と正直に言った。「いったい何があったんだ」
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