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第113話
今日の夕方、東城がいた捜査本部では近藤理事らしい遺体が山中で見つかったため騒然としていた。
東城は自分よりかなり年上のベテランの捜査員に頼まれて確認作業の手伝いをしていた。そこで、ベテラン捜査員のために大きな紙の地図を開き、一緒に確認していたのだ。
彼は電話口で話をしながら何冊かの地図を並べた東城に言った。「手前の地図の35ページあけてくれ」
それからさらに電話を聞きながら地図を覗き込む。顔をしかめた。「字が小さくて読みにくいな。Dの4のあたりってなんて書いてある?」
東城は、地図上の場所を探し、そこにある地名や施設名を言った。
ベテラン捜査員はうなずいて電話口で伝えている。それから再度東城に「コピーとってくれ。その周辺もわかるように」と指示した。
言われた通りに手伝いながら東城は眼が覚める思いがした。地図だったのだ。広瀬の両親との写真の裏に書いてあった言葉だ。
寝室で、山梨のガイドブックをめくり、地図のページを探す。
この手のガイドブックの地図は横軸にアルファベット、縦軸に数字が等分に振られている。
文字で分かりやすく場所を説明できるようになっているのだ。例えば、美味しいシチューが食べられるレストランは、地図の3ページにある横軸Dと縦軸3が交わる場所を探すとすぐに見つかる、といった具合だ。最近は、スマホのアプリの地図ばかりみていたので、そのことを思い出さなかったのだ。
ガイドブックの地図のなかで、横軸Bと縦軸5の交わる場所に何か手書きの印がないか見ていく。すると、あった。子どものいたずら書きのような丸い黒丸だ。凝った古本屋兼喫茶店があった場所だ。先日二人で山梨に行った時にはすでになくなっていた。
ガイドブックの地図のページは19ページだった。
「19ページのB-5」と指をさす。「何度も口の中で繰り返してると、なんとなく『ちきゅうぎのびーのご』って聞こえないか。この場所のことだと思う」
「ここですか?」広瀬は指先を見ている。
「古本屋兼喫茶店にお前のお父さんが伝えたい何かがあったのかもな」
「今は何もないですね」
「以前の持ち主を調べてみるよ。何が出てくるかはわからないし、意味はないかもしれないが」
広瀬は地図から顔をあげた。
「でも」と彼は言う。
「なんだよ」
「遠い話だと思って。20年以上前のことです。手がかりと言っても難しそうです。ただの子どものころの落書きかもしれないですし」広瀬はそれほど乗り気ではなさそうだ。
「そうだな。だけど、ずっと気になってたんだよ。『ちきゅうぎのびーのご』って何だろうってな。手がかりらしいものにたどりつけてすっきりしたんだ」と東城は答えた。
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