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第121話

だからすぐに『白猫』に連絡を取り、その夜会う約束を取り付けた。 東城の「道草するな」という言葉は裏切ることになってしまったが、どうしても『白猫』に会いたかったのだ。矢も楯もたまらずとはこのことだ。 『白猫』は広瀬からの面会依頼に特に不審がることもなくいつもの研究所に来るように言った。 彼は自分の研究室に広瀬を招き入れた。広瀬は勧められるままに椅子に座った。 「こんな時期に来るなんて珍しいね。システムエラーでもあった?」と聞かれた。 タブレット端末のことで来たと思っているのだ。 広瀬は首を横に振った。それから、タブレット端末を彼の目の前に取り出し、滝教授の研究所にあった実験の際の写真を見せた。 単刀直入に質問する。「ここにいるこの人は、あなたではないですか?」 指さした先の若い男と目の前の男。肌の色が白く眼の色は茶色の痩せた男。こうして見比べてみると同じ人物だ。 『白猫』はその画面を見た。そしてうなずいた。「確かに僕だよ。広瀬くん、滝先生の研究所に行ったんだね。そこでこの写真を撮った?」 「そうです」 「先生の許可はとった?」 「いいえ」 「そう。まあ、いいけどね。滝先生は気にしなさそうだから。それで、僕に何を確認しに来たのかな?」余裕の口調だった。いつか、広瀬がこうやってくることを予期していたのだろうか。 「あなたは、この20年以上前の記憶の実験に関係していたんですか?」 「そうだよ。僕はこの写真の中にいるだろう。君のお父さんも写ってるね。ここに小さく写ってるのはわかりにくいけど近藤理事だ。この可愛らしい子供が君だ、広瀬くん」そう言いながら『白猫』は写真の人物を指さしていく。 「俺のこと知ってたんですか?最初から?」 『白猫』はうなずく。「もちろんそうだよ。僕は、滝先生のところで近藤理事と知り合いになった。この研究所に入れたのは近藤理事のおかげだ。それで、最近はタブレットの研究開発もしていた。予算を獲得してね。そうしていたら近藤理事が君のことを教えてくれたんだ。君が、警視庁に入ったことをね。近藤理事と相談して君がこの記憶のサブシステムの実験に参加できるように手続きをしたんだよ」 『白猫』はそこで言葉を切った。広瀬の反応をうかがうように見ている。

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