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第125話

広瀬は東城のなすがままにまかせ、スーツを脱がせてもらった。 頭がぼうっとして、動きも鈍いのだ。手足が重い。こんなに疲労を感じ動けなくなるのは初めてだ。 暖かいシャワーの下で東城がまた広瀬を洗ってくれた。 石鹸を泡立てて身体をなでていく。髪も丁寧に洗った。彼の大きな手が自分に触れているのははっきりわかる。広瀬の好きな形と感触だ。気持ちがいい。冷え切っていた身体に体温が戻ってくる。東城の手に優しくされてだんだん身体に酸素と血液が回りだす。 シャワーを浴びた後、東城は優しい素材のオーガニックコットンの部屋着をもってきた。今の広瀬の身体にはこの柔らかさがうれしい。髪を乾かし、靴下をはかせてくれる。何もかも東城に任せていると、すべてを整えてくれた。 ダイニングではレストランのように椅子を引いてくれた。 「暖かいもの食べよう」と彼は言った。それから具沢山の粕汁、白身魚のフライ、野菜の煮物、雑穀ごはんを並べてくれる。 「胃に優しくて、健康によさそうだろ」と東城は言った。「お前が元気になるようにって石田さんが言ってた。怪我も酷かったけど顔色がとにかく悪かったって心配してたぞ」 粕汁を手に取り口に入れた。味が口に身体中に染みこんでくる。 「美味しい」と広瀬は口に出した。そうすると美味しいごはんがさらに美味しくなる。 それからは無言で食事をした。一口食べるごとに、大袈裟だが生き返るような気持ちになる。 背中から重く覆いかぶさるようだった疲労感も、消えていく。

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