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第134話

しばらく走ると整然とした街並みになる。 新築の大型のマンションとオフィスビルが立ち並ぶ新興の湾岸地帯を車は走る。 そして、物流関係や倉庫関係の建物の中の一角にある小さな三階建てのビル。 地下駐車場にとめる。狭いが3台ほどのスペースのある駐車場には自転車が2台置いてあるだけで、他の車はなかった。見える範囲だけでも5台ほど監視カメラが様々な角度で取り付けられている。駐車場のどこにいても死角はなさそうだ。 車を降りるとエレベーターに乗った。外見はかなり古いビルのように見えたがエレベーターは新しい。あっというまに三階についた。扉が開く。すぐに間仕切りのない広いスペースとなった。エレベーターと同じく、新しいオフィスだ。 床は落ち着いた濃い色のフローリングで壁も木目調。 壁際に大きなモニターや小さなモニターがいくつも並んでいた。黒い画面に白い文字の数字や記号で埋め尽くされているものもあれば、どこかの監視カメラの映像もある。その映像はときどき切り替わる。日本だけでなく海外の映像もありそうだった。 部屋の中央には明るいオレンジ色のソファーセットとガラスのローテーブル。 広瀬は茫然としてその部屋をみまわした。 「ここがラボだよ」と忍沼は言った。「座って休憩して」 示されたソファーの端に広瀬は腰かけた。 元村はコートを脱ぎ、ソファーの背にかけると広瀬と顔を合わせなくてよいはすむかいに座った。 「ここはあなた方のオフィスですか?」と広瀬は元村に聞いた。 「拓実のオフィスだ。俺のじゃない。拓実は、サイバーセキュリティの仕事をやってるんだ。客は海外の方がメイン。国内の企業は前科がある人間には発注しないからな。コンプライアンスとかなんとかに問題があるらしい。このビルは何年か前に買って、きれいにして使ってる」 元村はそっけないがきちんと説明してくれた。

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