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第135話
忍沼はオフィスの奥にある黒い色のカウンターからパックのお茶を3つもってきた。
「ここで一人で働いているんですか?」とお茶を受け取りながら広瀬は聞いた。
「ここではね。でも、海外にパートナーが何人かいるから。ネットワークでつながってるんだよ」と忍沼は答えた。
それから、彼は大きなノートパソコンを持ってきて広瀬の前に座った。画面を広瀬の側に向けてみせてくれる。
「この前のメモリーカードの中身だよ。中を見るのは簡単だった。暗号もかかってなかった」
いくつかの画面が表示される。図面だということはわかった。
「これは、記憶のデバイスの設計図だ。滝が売り出そうとしている完成品の、マスプロの設計図だよ。あきちゃん、これ、どこで手に入れたの?」そう聞いたがすぐに手をふる。「ああ、いいよ、言わなくて」
ところが「岩下んところのだろう」と横から元村が言った。「あいつんところに設計図があったみたいだから、そこのだろう」
忍沼は小さなメモリーカードを広瀬に返してくれた。
それから元村の言葉をつなぐ。「岩下の家の音声に、この設計図の話がでてきたんだよ。聞いてみる?」
広瀬はうなずいた。
忍沼は、ローテーブルの下に入れていたタブレット端末を操作する。
壁に設置されたスピーカーから声が聞こえてきた。
それは岩下教授ともう一人の男との会話だった。男は岩下から設計図が完成したことを聞き、そのデータを見たいと頼み込んでいた。岩下は設計図は滝から確認のため預かっただけなので、できないと断っている。押し問答は長い時間続いていた。
最後に男はあきらめていた。
その声は途切れ途切れで聞きにくかったが、聞き覚えがあった。
『白猫』だ。広瀬にはいつも猫なで声だったが、岩下に対してはそうでもなかった。だが、正体を知った今ならわかる。確かに『白猫』だ。
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