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第138話

深夜に突然目が覚めた。時計を見ると3時だった。 自分のすぐ近くでパチンと何かの音がしたのだ。身体が緊張して心臓がいつもより早くなっている。誰かの声が、聞こえたような気がした。 東城は今日は泊りのはずだ。 広瀬は寝室が灯りをつけた。 スリッパをはいて、廊下に出る。ぼんやりとした灯りの向こうは暗闇だ。物音に耳をすませたが、特に聞こえない。 警戒しながら一階に降りた。玄関に行き、鍵がかかっているのを確かめる。三和土に並ぶ靴は乱れておらず、土足で入り込んだ跡はない。 一階の部屋を順々に回り、明りをつけながら戸締りを確かめた。 何も変わったことはない。雨戸はびくともしておらず、カーテンもきれいにドレープを描いている。 気のせいだったのだろうか、寝ぼけていたのか。そう思いながらもう一度二階にむかった。 奥の部屋から明かりをつけ、こちらも戸締りを確認する。各部屋は石田さんの行き届いた掃除のおかげで、どこもきれいで整然としている。おかしなところはなにもない。 東城の書斎のドアをあけた。ここには滅多に入ることはない。彼がいない時に入ることはなかった。窓を確かめるが、鍵はかかっている。 デスクには大きなPCが置かれている。東城の家族のビジネス周りの書類や仕事関係のファイルが整理されている。 部屋の本棚にはビジネス書や流行りの小説、マンガがある。 ふと、本棚の隅にある本のタイトルが目に留まった。岩下教授の著書だった。脳や記憶に関する専門書だ。他にも関連する本が並んでいる。広瀬には何も言わずにいつのまにかこんな本を読んでいたのだ。一冊手に取って中を見た。見慣れない用語が目に飛び込んでくる。 広瀬は、その本を本棚に戻し、部屋を出た。 それから、広瀬は自分の部屋の鍵を開けて入った。 ここも、変わりはない。 引き出しの鍵をまわし、中を見た。 二人組から奪ったセミオートマチックの銃はちゃんとあった。忍沼に返してもらったメモリーカード、デバイス、カプセル。全て広瀬が入れた時のままだ。 ここも戸締りはされていた。おかしなところは何もなかった。 単に、最近色々な話を聞きすぎて、寝ている間も緊張し、変な感覚になっただけかもしれない。

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