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第139話

広瀬は、手のひらにデバイスを載せて眺めた。ちっぽけな黒い粒にすぎない。こんなもので、本当に記憶が、蘇るのだろうか。 頭の中で最近あったことが思い出される。山の中で二人組の男の一人が広瀬のことを、「あの時の子ども」と言っていた。どういう意味だったのだろう。 自分は両親が殺された場にいた。 連中もまた、その場にいたのではないだろうか。 広瀬は、もう一度デバイスと一緒に送られてきた説明書を見た。 装着は簡単そうだった。カプセルを一錠飲んで、デバイスを奥歯のさらに奥に入れるだけだ。 デバイスの装着には痛みもほとんどなさそうだった。さらに、説明書によれば、デバイスは着脱可能だった。つけてもすぐにはずすことができそうだ。痛みや不快感があればすぐにとるように、とさえ書いてある。 パチン、と何かが頭の中で鳴った。眠っていた広瀬を起こした、あの音だ。 その前にも聞いたことがあるような気がする。 だが、それがなんの音なのかは不思議と気にならなくなっていた。 広瀬は、誘われるようにカプセルを飲んだ。デバイスをケースから取り出し、口の中に入れた。 まずいとか危険だという感覚は皆無だった。

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