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第142話

広瀬は2回ほど忍沼と会い、山道で自分を襲った二人の男のことを聞いた。 自分を犯そうとしていた男に、後からきて声をかけた男の声と、両親が殺された夜にベッドの下を覗き込んで子どもの広瀬を見た男の声と似ていたのだ。 普通なら、子どもが一度しか聞いたことのない声だから、と勘違いの可能性も考えていただろう。 だが、歯に埋め込んだ記憶のデバイスを使うと、録音の再生のようにどちらも正確に聞こえてくる。 ベッドの下で聞いた声とあの山中の声を繰り返し何度も頭の中で再生した。同じ声である確率が高いと思えてくる。 さらに、子どものころ聞いたあの声は、「近藤」という名前を言っていた。 近藤理事のことだろうか。よくある名前だから早計は禁物だが、父と親しく、実験にもかかわっていた近藤理事が、両親の殺害に何かしら関与していても、もう、驚くことはなかった。 いずれにしても、あの時の山中の男たちを探し出し、真相を追求したい。時間があると考えるのはそのことばかりだ。 忍沼によると、スティンガーセキュリティ社の登記上の社長は、高齢で介護施設に入っている。社長には家族はいない。 介護施設の費用は、スティンガーセキュリティ社から給与として支払われている。 忍沼は、元村と共に登記簿上の住所に行った。 そこは、一軒家で確かに表札にはスティンガーセキュリティとあった。 二人は目の前を通ったが、立ち止まったり、戻ったりはしなかった。わかりやすい位置に監視カメラが一台と、目立たない場所に数台配置されていて、事務所の前を通る人間すべてを記録しているのが分かったからだ。 セキュリティ会社だから当然ともいえるし、何かを警戒しているともいえる。 その前で自分たちの顔をさらすようなリスクを二人はおわなかった。

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