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第143話
「スティンガーセキュリティには、この一週間で何人かが出入りしていたよ」と忍沼は広瀬に教えてくれた。
写真も見せてくれる。スティンガーセキュリティ社の付近にある監視カメラをハッキングして入手したのだ。
不鮮明だが、顔が映っている。あの山の中で広瀬を襲った男たちに背格好が似ている気がする。あの時は暗闇の中でほとんど顔は見えなかった。
「スティンガーセキュリティのところのカメラはハッキングできなかった」と忍沼は言った。「セキュリティ会社だから、ハッキングには注意してるみたいだ。もう少し穴を探してみるけどね」と言っている。
「声を、録音することはできませんか?」
覚えているのは声だ。聞けば確信はもてるだろう。
あの山の中の声と、両親が殺された夜、子供部屋で聞いた声は、同じ。わずかな言葉だったし20年以上たつのだから、声も変わっているだろう。声を聞くことができたら、記憶とすりあわせて、検証できる。
忍沼は元村に目をむける。「盗聴器、しかけられるかな?」
「無理だ」と元村は言った。「あそこはいつも人が出入りしている。夜も誰かが泊まってる」
「ガスかなにかの業者のふりして入るのは?」
「スティンガーセキュリティ出入りしてる連中は、その辺の祭りで交通規制手伝ってる警備会社とはわけが違う。ここに映ってる顔も全員うさんくさい顔してるだろ。そんなとこにガス会社ですとかいって尋ねたら、それだけで疑われる。他の方法を考えた方がいい。慎重にしないと、チャンスをふいにする」
広瀬は写真を眺める。
「この二人が怪しいんだね」と忍沼は指をさす。
「名前はわかったんだ。堀口と竹内」と忍沼は言った。
すごいだろうという自慢げな表情だ。確かにすごいことだ。短期間でそこまでわかってしまうなんて。彼からしたらどんな個人情報も丸見えなのだろうか。
「二人はスティンガーセキュリティの社員だよ。社会保険がスティンガーセキュリティから支払われてる」
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