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第144話

「それでね、この堀口って男」と忍沼は言う。「元警視庁の刑事だよ」 忍沼は説明してくれる。「20年以上前に、警視庁に入って数年で辞めてる。辞職理由は家業を継ぐためで、一時的には本当に親のやってた小さいオフィス家具の問屋に勤めてたみたいだ。その後は、スティンガーセキュリティに入ってる。社長の青山は警察関係者でもなんでもない。本当は、堀口が休眠に近かった警備会社を立て直したのかもしれないな」 警察OBが警備会社をやるというのはよくある話だ。 「スティンガーセキュリティは、経営は順調とはいえないんだよ。仕事って言ってもそれほどなくて、小さい警備や警護の仕事が単発でくるくらいで、毎年、赤字だ。税金対策かもしれないけど、税務監査入ったりしてもわからないくらいだから、利益出てないのは確からしい」 そういうこともあるのだろうか。商売が必ずしもうまくはないのだろうか。赤字会社と彼らの様子はイメージとは異なるが。 そう思った広瀬に忍沼はうなずく。 「そうだよ、あきちゃん。赤字会社をずっとやってる彼らが、どうして、最新鋭のセキュリティ入れられると思う?税務署は、わからなかったのか目をつぶったのかはしらないけど、連中の入れてる設備はすごいものだよ。僕だってすぐにはハッキングできないんだから」 「スティンガーセキュリティには、どこからか、金がでてるんじゃないかと思ってる」と元村が言った。「表に出ない金だ。税務署も追えないくらい、地下に潜ってる」 「堀口と近藤さんとは、接点があるんですか?」 「そうだと思うよ」と忍沼は言った。「どこで、どんな接点かはわからないけどね。堀口を追ってたら、そのうち出てくるよ」 自分でも堀口に近づく方法を考えようと広瀬は思った。堀口の声を聞けば、あの男かどうかわかるのだ。 あの男たちが何者で、何の目的で動いているのか知りたい。あの時、あの山の中で、彼が探しているといったものとはなんだったのだろうか。 堀口を捕らえ、彼に語らせればすべてがわかるだろう。 両親の死、近藤理事の死。そして、知った後は、その時は、自分に何ができるだろうか。

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