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第147話
彼が大きな手で髪の毛を優しくなでてきた。
「寝てた?」
「いいえ」
「ぼんやりしてたみたいだけど、大丈夫か?」
「元気ですよ」体調はいいくらいだ。
「顔が、ぼうっとしてる」と彼は頬を手で包んでくる。
乾いた手だった。
「そうですか?」
「なんともないのか?」そういいながら頬を指でつままれ軽くひっぱられた。
「あ」
驚いて声を立てると軽く笑っている。こういういたずらっ子の楽しそうな顔は好きだ。
そういえば、記憶のデバイスで東城とのことを思い出そうとしたことはなかった。
忘れるほど昔ではないせいだ。
鮮明ではないものの、彼とのことはほとんど覚えているからだろう。
それに、こうして目の前にいるからだ、と広瀬は思う。東城は今確かに存在していて、消えることはない。
彼との楽しい時間を得るのには、あのデバイスに頼らなくていい。
広瀬の大切な人。もし、両親や兄弟が生きていたら、彼のことを大事に思ってくれただろう。
広瀬は身体をおこし、背もたれの代わりに彼にもたれかかった。わざとぐいぐい体重をかけたら、そっと腕をまわしてきた。
探るように、いたわるようにそっと唇をおとしてくる。
「動ける?」と聞いてきたのでうなずいた。
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