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第149話
彼が手で皮をむいた。中は赤い。
「食べたい?」
広瀬はうなずいた。
半分を噛みとり、残りを広瀬の口の前に差し出してくる。
広瀬は軽く舌をだしてそれを口に入れた。彼が、自分の口元を見ている。もう一つと口をあけると、追加してくれた。
そして、無花果を口に含んだままで、キスをされた。
せっかくの無花果を東城に食べられてしまうので、それを追って広瀬は彼の口に舌を入れた。
彼の息も口の中も甘い熟れた無花果の味だ。むさぼるように味わって、その味がだんだん薄れて彼の唾液になってもそれも飲み込んだ。
「無花果って、形がなあ」と東城はもう一個手に取り広瀬の前でゆすって見せる。「無花果だけじゃなくて、果物ってさ、全体的に肉感的」
「甘いからですか?」
「そうだな。それに、むっちりしてる」
もう一つ食べさせてもらった。指までしゃぶって甘みを楽しんだ。
「むっちりしてるのが好きなんですか?」
「そうだな。ガリガリ痩せてるのは、苦手かな。甘くないし。果物の話だろ?」
彼の首の後ろに手を回し強く引き寄せた。舌を吸って唇を噛んで、いつも彼が自分にするように。
ふと気づいて目を開けると東城が自分をじっと見ていた。
黒い深い瞳が自分をとらえていた。予期しなかった視線に首に回していた手を思わず放した。
「広瀬」と呼ばれた。
首に唇がおろされついっとつたった。
怪我をした左肩を本当に舐めてくる。痛くはないが、気持ちよくもない。
「なでたら、痛そうだ」と彼は言った。「早くよくなれよ。きれいな肌がだいなしだ」するりと手がたどる。
「もう痛くないです」と広瀬は言った。
「力入れてないからだ」不満そうな返事がもどってきた。「本気出して抱いたら、痛くて泣くぞ」
「泣いたりしませんよ」と広瀬は答えた。「お風呂の中で浮いてるから、押されても大丈夫です」
東城の身体に手を回して、自分から抱きしめようとしてみせた。
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