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第152話
気が付くと、ベッドにいた。
東城がベッドボードに持たれながらぐったり力を無くしていた自分を抱いていた。
目を閉じているので眠っているのかと思ったが、少し身体を動かすとすぐに目を開けた。
黒い目が先ほどと同じような不思議な気配を見せている。
「辛そうだった」と東城は言った。
じっと見る瞳は、なにかを見透かしているようだった。広瀬の秘密を、知っているのだろうか。
「沈めたりするからです」と広瀬は心の内とは全く違うことを答えた。はぐらかしてしまおう。
「お前が、強がったからだ」と彼は言った。苦々しい口調だった。「痛いなら痛いって言えよ。怖いとか、苦しいとか、ちゃんと言えよ」怒っているのかもしれない。
「怖くはないです」
苦しいだけだ。それもすぐに愛しい感情に変わる。
「お前が、言わないとわかんないんだよ」とまだ東城は言い募る。「わからないことだらけだ。未だに、お前のこと」
広瀬は身体を動かし、東城に顔を近づけた。
彼の不満そうな唇に唇を合わせた。
「俺も東城さんのことはわからないことばかりですよ」
「あたりまえだ」と東城は言った。「わかんなくていいんだよ、俺のことなんか」と彼は言った。
広瀬には彼の言葉の意味もわからなかった。
見ていると彼は目を閉じた。舌が口の中に入ってきて、歯列をなぞられた。長く口の中をかき回され、それから、あごに、首筋に唇が落ちてきた。
喉を軽く噛まれた。痛みもないくらいに、優しい感触だった
。
そうしながら東城が自分を呼んだ。返事をしないともう一度呼ばれる。
返事を返したが、また、名前を呼んできた。
東城は、何か感じているのだろうか。いっそ、全てを明かしてしまおうか。
だけど、そんなことをしたら、彼は心配するだろう。彼を堀口との対決に巻き込んでしまうことになる。
記憶のデバイスを使うなと言ってくるだろう。広瀬にはそれを手放すことはできなかった。
自分を呼ぶ東城を愛している。でも、もう自分を止めることはできない。
広瀬は呼ばれるままに何度も返事をした。だが、肝心なことはなにも回答しなかった。
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