156 / 193
第156話
彼女は日記の間にあった薄いファイルを取り出した。
「このファイルも一緒にあったんです。なんのことか全然わからなかったんですけど、父の日記を読んでいったら、なんとなくわかってきました」と彼女は言った。
ファイルをめくると、そこには数字の羅列があった。
さらに、手書きの文章。日記とは違う筆跡だ。整った几帳面な文字が並んでいる。そこには、大学に助成された研究費の使途、巨額な金が消えていること、そして、おそらく、裏金化していることが分析されていた。
東城は竜崎にそのファイルを渡した。彼も素早くそれを見ている。
「父の日記では、広瀬さんがある日、山梨の喫茶店に訪ねてきて、そのファイルを預けたそうです。大事なファイルだから預かってほしいと言って。父は、もちろん了承しました。広瀬さんとは親友でしたし、恩もあったので。喫茶店をたてるときには広瀬さんはかなり手伝ってくださっていたようでしたし。ところが、ファイルを預かった後、しばらくして、広瀬さんが殺されたという記載がありました。父は自分が預かったファイルが原因なのではないかと考えて、日記やファイルは何も知らない遠方の親戚に一時的に預けたそうです。でも、その後、喫茶店は放火されてしまって、父は大事なものを二つも同時期になくしました。ファイルを公表しようかとも思ったようですが、広瀬さんのご家族も殺されているのを知っているので、母や私に危害が及ばないように、やめたみたいです」
彼女は、自分のする話に、自分でも戸惑ったようにしている。
「この内容、びっくりしました。あまりにも荒唐無稽な話だったので、父が考え付いた物語かとも思いました。そんなドラマみたいなことがあるわけないって。気にしないことにしていたんです。でも、だんだん気になって、頭から離れなくなりました。当時の新聞記事をかなり探したんです。確かに、広瀬信隆さんという方が、ご自宅で殺されたという小さい記事をみつけました。父の日記は、嘘でも作り話でもないんだって、思っていました」
竜崎は父親の日記を次々に読んでいる。
「今回、我々に会って下さったのはなぜですか。この日記をファイルをお預かりして、内容をよく吟味してもよいということでしょうか?」と彼は聞いた。
ともだちにシェアしよう!