158 / 193
第158話
本庁に戻り、東城は竜崎と共に日記と広瀬信隆が書いたと思われるファイルを読み込んだ。
裏付けがとれそうなところとそうでないところがある。20年以上前のことだ。資料も残ってはいないだろう。この日記とファイルのみで、立証できることは少ないだろう。
夜遅くまで整理していると、福岡に話しかけられた。
「どうだ?」
竜崎が、難しそうな顔をして答える。「かなり、やっかいな話です」
「どれどれ?」竜崎の話に福岡の表情がうれしそうになる。
東城は、書きかけの資料を差し出した。
一目見て「裏金の証拠がでたのか」と福岡は言った。声がわずかに興奮している。
自分が若い頃に追っていた裏金の事件を忘れたことがなかったのだ。
「関与していたのは誰だ?」
「それが」と竜崎は口を濁す。
福岡は、彼の持つ資料を半ば取り上げるようにして読み始めた。
「やっぱり、近藤だったんだな」と彼は言った。「近藤が、裏金作りを主導していた。他にも名前があがっているな。こいつらを調べるか」
「かなりな高官や政治家もいるようですが」
福岡は予期していたようにうなずく。「そうだな」
「この広瀬信隆のファイルに書かれたことが真実とはかぎりません。証拠も不十分ですし」と竜崎は自分の意見を述べようとしている。
「真実だろう」と福岡は言った。「広瀬信隆は、天才と呼ばれた男だった。分析力は人一倍だ。だが、残念ながら彼は、人間というものへの理解が少なかったんだな。こんな資料を作成したら、どうなるか、わかっているようでいなかったんだろう。いや、優秀すぎて、自分ならうまく切り抜けられると思ったのかもしれない」
福岡は、資料を手にしている。
「今回の近藤理事の殺人事件にも関係があると思われますか?」東城は福岡に聞いた。
「近藤は、ハンガリーのオフショアに金を動かしていたんだろう。この巨額の裏金を巡って、なにかトラブルになったとも考えられる。金は人を殺すのに十分な理由になる」
他には、と福岡は言った。
ともだちにシェアしよう!