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第160話
福岡がチームの他のメンバーに別件に呼ばれて去った後も、東城は、広瀬信隆のファイルに出てくる人物名を全て書き出し、それぞれの関係や金の流れの中の役割を図にしていった。
近藤は、登場人物の一人ではあったが、首謀者ではなさそうだった。
この研究費から裏金をねん出する仕組みは、広瀬信隆が気づくかなり前から行われており、継続していた。
滝や岩下といった研究者たちは、裏金作りには関与していないようだった。
自分たちの研究費がどこかねじれたものになっていることは薄々感づいてはいたようだが、問いただして実験がとまるようなことはしなかったのだ。
「裏金とはいうものの、一体この金は何に使われたんだろうな」と竜崎は呟いた。「これほどの金額を何のために」
東城はうなずく。広瀬信隆のファイルでも、そのことは明確にはなっていない。金の行方を追っている最中に、彼は殺されたのだ。
「僕の考えが甘いのかもしれないが、近藤理事に対する周囲の評価からすると、とても、私腹を肥やすというようなことは考えにくい。彼が忠誠を尽くす組織のために、裏金を作ったんじゃないだろうか。とすると、組織の目的は何だろう」
「さあな。近藤理事より上の幹部が自分の懐に入れてたんだろ。それに、なんだかんだ、捜査ったって金がかかるじゃないか。情報屋に金握らせたり、関係者に飯食わせたり、経費じゃ落ちないことも多いから、そのためなんじゃないか。裏金作って、必要だけど足りないところに落としてたんじゃないのか。現場の捜査員が上司が自腹切ってくれたってありがたがってたら、実は裏金から出てたとかありそうだろ」と東城は言った。
「そうだな」と竜崎はうなずく。「金は今、いくらくらい残っているんだろうな」
「ハンガリーのオフショア使うくらいだ、まだ、相当あるんじゃないか」
「うん」竜崎は言う。「この裏金作りのスキームは、何年から何年まで動いていたんだろうか。いや、そもそも、何年までという終わりがあったのか」
「どういうことだ?」
「今までも、連綿と続いていたとしたら?近藤理事は研究所勤めだから。研究費がらみの裏金は作りやすい」
竜崎がそう言いながらパソコンを操作し、集めたデータの中から研究所の経理データを呼び出す。
東城はそれを覗き込み、竜崎が集計していくデータを追う。
確信はないが、自分たちは、かなり近いところに来ているかもしれない。
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