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第162話

東城は、広瀬信隆のファイルの研究者たちの名前を再度見る。 出てくるのはある程度の地位がある研究者だけだ。 菊池の名前はなかった。彼は、当時かなり若手の研究者だからだろう。20年前は、駆け出しの研究者だったのだ。 そんな若い頃の菊池に、幼い広瀬の記憶を操作することなど、本当にできたのだろうか。 そして、今の菊池の広瀬に対する言動は何を目的としているのだろうか。 彼は、滝とも近藤とも関係あったが、この金の流れのことを知っているのだろうか。 広瀬の両親の殺人事件の背景についても知っているのか。 「この男にあたってみるか?」と竜崎は東城に聞いてきた。 「いずれ、そうしたい」タイミングを計る必要はあるだろう。 竜崎がさらに菊池の情報をプリントしているのをみながら、東城は広瀬信隆のファイルを再度読み返した。 綿密なデータとわかりやすい分析によって構成されている。 平易な言葉でつづられながらも、その文章からは、組織を汚染している深刻な犯罪を摘発しようとする強い正義感と、本人の性格なのだろう、ほんのわずかだが隠せない諧謔がにじみ出ていた。 事件が一段落して、もしできるものなら、このファイルを広瀬に見せてやりたい、と東城は思った。 彼は父親のことを知りたがっていた。このファイルは広瀬の知らない父親の一端を彼に教えることができるだろう。

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