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第163話
広瀬は、仕事が一段落したので大井戸署を後にした。
出がけに宮田が最近早いな、としつこく理由を聞いてきたが、返事はしなかった。
今日は、忍沼の家に行く予定だった。
昨日の夜、彼が、スティンガーセキュリティについての新しい情報を入手できるかもしれないと連絡してきたのだ。
電車に乗って駅に着くと、忍沼の小さなアパートのある路地裏に向かった。
途中で、小腹がすいたのでコンビニに立ち寄って、おにぎりを買った。
ふと思って、忍沼のために小さな牛乳パックを買った。お土産のようなつもりだった。
アパートを見上げると、灯りがついていなかった。
忍沼は、家で待っていると言っていたのに、不思議な気がした。
外出しているのだろうか。もしかして、駅で待っていて、行き違いになったのか。
電話をポケットから取り出してみたが、特に連絡は入っていない。
広瀬は、階段を上り、忍沼の部屋の薄いドアをノックした。
ノックする必要がなかったのはすぐにわかった。ドアは、蝶番にぶら下がっている状態で、ノックすると揺れた。
広瀬は、部屋に飛び込んだ。
血の匂いがする。
暗い部屋を、路地の居酒屋の灯りがちらちらと照らしている。
中は、荒れ放題で、窓が割られていた。天井の灯りが叩き落されている。棚は倒され、ガラスが飛び散っていた。
部屋の奥に、忍沼が倒れていた。顔が血だらけだ。
広瀬は、忍沼に声をかけた。かすかにうめき声がする。意識はないようだ。
すぐに、救急車を呼んだ。
待っている間、体温が下がるのをふせぐために上着をかけた。傷口を探すために、慎重に触れる。大きな傷を見つけることができない。自分の手や身体にべったりと血が付いていく。
助けたい。
このまま、どこかに行ってしまって欲しくない。
忍沼の息は細く、救急車を待つ間、広瀬もまた、呼吸が止まった気持ちだった。
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