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第164話
救急病院で広瀬は、忍沼の友人と名乗った。すぐに処置が行われるということだった。
事務に呼ばれ、家族のことや保険のことをきかれた。広瀬は答えることができなかった。
忍沼のことはよく知っているようであまり知らない。連絡しなければならない家族はいるのだろうか。
処置が終わるのを廊下で待っていると、電話がかかってきた。知らない番号だ。
とると、元村融からだった。
「今、拓実の家にいる。一体、何があったんだ?」と聞かれた。焦っている声だ。
「わかりません」と広瀬は答えた。そして、病院にいることを告げた。
ほどなくして元村は現れた。
息が上がっていて、汗をかいている。
走ってきたのだろう。かなり焦った表情だ。
「何があったんだ?」息せき切って彼に聞かれた。
広瀬は首を横に振った。
自分が分かっている少ないことを話した。元村は時々質問をしてきたが広瀬が答えられることはなにもなかった。
「忍沼さんは、家族は?」と聞いた。
「いない。いや、いるけど、今は音信不通だ」
「そうですか。ご家族に、怪我をしたことを伝える必要があると言われました。万が一のことがあるので」
「誰に言われたんだ?病院にか?でも、いないんだから、知らせようがないだろう」と元村は振り切るように言った。
それから長い時間二人で処置が終わるのを待った。
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