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第167話
広瀬は、病院を出たところでタクシーを拾った。
家までの道のりは長かった。
倒れていた忍沼の様子が何度も頭に浮かぶ。血だらけだった。触れても力がなかった。
気が付くと手が震えている。怖いとか悲しいとかじゃない。
あの時と、同じ傷み。同じ憎しみ。
子ども時の、廊下に出て、血だまりでみつけた、母。
声をかけても、揺さぶっても、もう自分を抱きしめてはくれない。あの時、両手は血まみれだった。今日も、血まみれだ。
震える手を握りしめ、震えを止めようとした。
何度も手を開き、手を握り、繰り返していた。
一瞬、夜の店の灯りがタクシーの中を照らし、自分の手が見えた。小刻みに震えていた。握っても震えは止まらない。
別なことをしようと、頭の中から考えを引きはがすようにスマホをとりだした。
東城からの連絡が入っていた。彼は、家に帰ってきているようだ。
この時間だと広瀬に用事がない限り眠っているだろう。
ニュースサイトを見たが、いつもと同じようなニュースばかりだった。忍沼の件はニュースになるだろうか。
スマホに意識を向けられない。
もう一度、手を握り、手を開いた。
同じ憎しみだ。
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