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第168話
家に帰ると、玄関には東城の靴があった。
家の中は静かだ。思っていたとおり東城は寝室で寝ているのだろう。
広瀬はできるだけ物音を立てないように入った。
血の付いた衣類は全て脱ぎ、ごみ袋に入れた。そして、浴室に入り身体を丹念に洗った。
血はついていないのを鏡で確認する。
ごみ袋をもって二階に向かう途中で、スマホが振動した。
元村だった。
広瀬はすぐに、電話をとった。
東城を起こさないように気を使い、声を潜めながら自分の部屋を開け、中に入った。
後ろ手で鍵をかける。
「はい」と電話に返事をする。
「さっき、警察が帰った。明日朝また来るらしい」と元村は言った。「拓実のこと心配だから、まだ、ここにいる。それで、悪いんだけど、頼みがある」そう言ったあと、彼は頼みごとを言うのをためらっていた。
「なんですか?」広瀬は促した。
「拓実の仕事場のラボのビル、覚えてるか?」
「はい」
「あそこの駐車場に行ってほしい」と元村は言った。「拓実のラボにあるサーバのデータを消してほしいんだ」と彼は続ける。「間に合わなかったら仕方ないが、拓実を襲った連中にデータを渡したくない。連中がもし、拓実のラボのことを知ったら、必ず、探しに来るはずだ」
そう言いながらも、元村は無理はしなくていいと言った。
お前を危険な目にあわせるわけにはいかない、と彼は言っていた。
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