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第170話
湾岸地帯の忍沼の仕事場のあるビルの手前で広瀬はタクシーを降りた。早朝の時間帯だが始発が動き始めたからかまばらに人が歩いている。ジョギングをしている人もいる。
あたりを見回しながら、広瀬はゆっくり歩き忍沼のラボのあるビルにむかった。
裏手から見てみるが、建物の周囲に人はいなかった。警戒しながら近づく。監視カメラがじっとこちらを見ている。
警戒しながら、地下駐車場に入った。以前来た時と同じで、自転車がとまっている。
元村に指示された通り、自転車の下の床に引いてある白線に近づいた。
よく見ると、小さな突起がある。コンピュータを操作して、サーバーのデータを消すなどという複雑なことは忍沼にしかできない。
そのため、このラボを作るときに、緊急用に忍沼が用意したのだ。
小さな突起を押しながら白線をなぞると、するりと小さな長方形の形で白線の一部がずれた。
そこには、テンキーがある。広瀬は教えられた13桁の番号を押し、ためらいなくエンターキーも押した。
じっと耳をすませるが、特に何か起こった様子はない。サーバーからデータはなくなったのだろうか。そもそも、この機能は稼働しているのだろうか。
広瀬は白線をもとに戻した。そして、慎重に駐車場を横切ると階段を上にあがった。ビルの中は暗い。物音はしていない。
そのまま階段をあがり、三階についた。特に変化はない。ぼんやりとした外の日のあかりがはいってきている。
以前来た時には、ディスプレイやPCなどの機器には電源が入っており、何かを映したり、緑の灯りが点滅したり、ファンが動く音が静かにしていた。
今は、全く動いていない。サーバーのデータを消したせいだろうか。そうだったらいいのだが。
そこで、ふいに、ズンという音が背後でした。
振り返ると、エレベーターが動いていた。
二階でとまっている。広瀬は、耳をすませた。防音がきいているせいか大きな音はない。
だが、先ほどまで一階にいたはずのエレベータは確かに今動き、二階でとまっている。
広瀬は、腰の後ろにさした銃を手で触れた。頭の中で、抜いて構える動作をなんどかシミュレーションした。
エレベーターは二階でとまったままだ。
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