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第173話

昼過ぎに、東城は、宮田からの電話を受けた。 「広瀬、どうしてるんですか?」声を潜めて話している。 「なんだ?」東城は聞き返す。「広瀬が、なに?」 「無断欠勤ですよ」と宮田は言った。 「え?」 「急病にでもなったんですか?連絡できないくらい?それなら、東城さんが代わりにどうにかして連絡してくれればいいじゃないですか。俺、自宅までみてこいって高田さんに言われてて」と宮田がブツブツ言っている。 「何言ってるんだ?無断欠勤?」 宮田は、わずかに黙った。「知らないんですか?」 「ああ」 「家には?」 そういえば、会っていない。 いや、自分も忙しくて遅くなっていた。 彼がいないことはしょっちゅうで、おまけに連絡しても返事がないのも当たり前だった。 正直に答えた。「会ってない」 最後に会ったのがいつだったか、思い出さないとわからない。 「って、どこにいるかも把握してないんですか?」 「当たり前だろ。特に変わった様子もなかったし」 「東城さん、広瀬は、最近、ずっと様子が変でしたけどね。早く帰宅してたし、ぼんやりしてることが多かったし。その割に妙に鋭かったり、会議でも積極的に発言したり」そう宮田が言った。「家にはいるんですか?」 「わからない」と東城は答えた。「電話してみる」 「俺も何回もかけてますけど」 「石田さん、家事をやってくれてる女性が今日は来てるんだ。広瀬が、家にいるなら、わかるはずだ。他にも、心当たりを探してみる」 そういいながら、心当たりってどこだ、と自分に聞いてみた。 広瀬の個人のスマホに何度も電話とメールをする。電源を切っているのかもしれない。留守電も残せない設定になっている。 まずは、石田さんに電話をした。彼女はすぐにでた。広瀬のことを聞くが、家にはいないと言われた。 「どうかしたの?」と言われる。 「いや、ちょっと」と東城は口ごもった。「石田さん、広瀬の部屋の中は?」 「さっき掃除しましたけど、いらっしゃいませんでしたよ」 「部屋には鍵がかかっていなかった?」 「ええ。そういえば、ここのところ鍵かけてたわね。でも、今日はかかってなかったわ。部屋の中も普通通りでしたよ」 家にも大井戸署にもいないとすると、どこに行ったのだろうか。 まさか、勢田が連れて行ったんじゃないだろうな。あの、ヤクザが広瀬をさらっていったのか。 だが、以前広瀬を迎えに来て食事をしていた勢田は、とにかく、会えればいいと言っていた。 無理なことをしそうな様子ではなかった。ヤクザ者のすることだから、いつひっくり返っても驚かないが。もし、このまま見つからなかったら、勢田をしめてやろうと東城は思った。

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