177 / 193

第177話

東城は狭い病室の中を歩き回った。 ベッドの脇にはスマホが置いてある。 小さな机と椅子があり、下にはリュックサックがあった。勝手に開けてみると、衣類が入っている。財布もあった。中身を見ると、それなりの金額が入っている。クレジットカードが2枚。どこかのチェーン店のポイントカード。ありふれたものだ。 「友人の男と言うのは?」と竜崎に聞かれた。彼は、忍沼のベッドの端にかかっている書類を読んでいる。 「おそらく元村融という男だろう。忍沼とは親しいらしい」と東城は答えた。「軍事訓練受たみたいな身のこなしだった。きな臭い奴だ」 「そんな奴が?」と竜崎は言う。「所轄はこの件をチンピラの喧嘩で処理するみたいだが、いい加減な対応すぎる。それにしてもひどい怪我だな」と竜崎は忍沼を見る。「ここまでするとは、容赦ない。死んでもいいと思わないと、こうはできない」 「相手は誰だと思う?ヤクザか?」 「堀口は、元警察官だったな」と竜崎は答える。 「警察もこれくらいやるってことか?人聞きが悪いな」 「時々いるだろう。変に暴力的な奴が権力志向で警官になる」 「ああ、問題起こして長続きはしないけどな」 会話をしているとその声に気づいたのだろう、忍沼が目を開けた。彼は東城を認めたようだった。 東城は顔を覗き込んだ。「誰にやられた?」と聞いた。 返事はできそうにない。目だけが東城をじっと見ている。 「広瀬がどこにいるか、知らないか?」と東城は重ねて聞く。「連絡がとれないんだ。どこにいるのか全く分からなくなってる。大井戸署にも連絡してきていない。お前をやった奴を追ってるのか?相手は、まさか、堀口とかいう男か?」 忍沼の包帯を巻かれていない手が動いた。 指が、ベッドの脇を指す。動作はゆっくりだが、意識ははっきりしているようだ。

ともだちにシェアしよう!