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第181話

パチン、と、また、知らない音がした。 「どうかしたのか?」と呼びかける声が耳に入ってくる。何度も呼ばれた。 はっとなって横を見た。 元村融が運転している。 「ぼんやりして、大丈夫か?」 広瀬はうなずいた。 忍沼のラボで、広瀬が堀口たちが戻ってくるのを待っていると、元村がやってきたのだ。彼は、広瀬から事情を聞くと一緒にラボにとどまった。 堀口たちが戻ってきたのは翌日の昼近くだった。彼らは、ビルの前に車を2台とめ、サーバーを運び出していった。整然と動作をしており、道行く人はだれも疑っていない。白昼堂々とはこのことだ。 人が行き来しているため、停めている車にも近づきやすかった。元村は、隙を見て車に小さなGPSの端末をつけた。 そして、堀口たちが去った後、元村がビルから離れたところに停めた車に乗って、GPSを追っているのだ。 「そういえば、さっきラボで電話してただろう。誰とだ?」と元村がさらに質問してきた。 「え?」広瀬は聞き返す。 電話なんかしていない。こんな時に、誰かと話している場合ではないだろう。 「ラボを出る前に、誰かと話してなかったか?」元村は怪訝そうにしている。「誰かを呼んだんじゃないんだろうな?東城とか、警察の同僚とか」 「なんのことですか?」広瀬にはさっぱりわからない。 「電話していない?」 「全くです」 「ふうん。俺の気のせいか」と元村は言った。「ここにいることは誰にも言っていないんだな」 「はい」と広瀬は言った。 堀口が、両親を殺した男であることを広瀬は元村に告げていた。 自分が、堀口を追い、復讐をしたいと思う理由を元村は理解していた。 長い間思い描いていた復讐。今、それが叶おうとしているのだ。誰かを呼んだりするはずがない。

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