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第5話
外出のために着替えていると、石田さんに今日はどこに行くの?ときかれた。
少し怪訝そうな顔をしているのは、それほどラフな格好ではなく、地味な黒っぽいジャケットに白いシャツ、ネクタイをしていたためだろう。
「広瀬のご両親の墓参りに行くんだ」と東城は答えた。「今日はご両親の命日で、広瀬の伯父さんご夫妻もこられるらしい」
「そうなの」石田さんは、東城のシャツの襟を手をのばして直してくれる。「それは大事な日ね」
「こういうシチュエーション初めてなんだよな。どういう感じでいたらいいと思う?」と聞いてみた。
石田さんは当惑したようなあきれたような声をだした。「あらあ。そうねえ。どういう感じってなにかしら?」
「広瀬の親戚に悪い印象を与えたくないんだ」
「それはそうでしょう。大丈夫よ。弘ちゃん、黙って姿勢よくしてたらいい男だから」そうちょっとひどいことを冗談交じりに言って石田さんはぽんぽんと東城の背中をたたいた。「弘ちゃんらしくもない。よほど気に入られたいのね」
「もちろんだ。広瀬の親代わりの人たちだから、歓迎されたいし好かれたい。昼食一緒に取るんだけど、何話しよう。それに、昼食代こっちで持った方がいいのかな。どう思う?」
石田さんは、ふふっと笑っている。「そういうどうしようどうしようっていうの大事よね。せいぜい悩みなさい」と彼女は言い、アドバイスはしてくれなかった。
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