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第10話
昼食後は、郊外にある伯母の実家に向かった。そこは彼女の母親が住んでいたそうなのだが、一昨年なくなっており、家には誰もすんでいない。田舎の大きな家だった。
広瀬の両親の遺品で戻ってきたものは、スペースがあるその家に預けていたのだ。最初は、とりあえず広瀬が大人になるまでは預かろうということだったのが、そのままになってしまいずっとそこに置かれていたのだ。
だが、無人になってしまった家は不用心で、管理も行き届かなくなったため、売ることになったらしい。そこで、広瀬の両親の遺品を、移動させることになった。
広瀬は、何度かその遺品はみにきたことがある。そして、この際だから、処分するものと、そうでないものをわけ、必要なものは、広瀬が自分で持ち帰ることにした。
遺品といわれるものは、大小のダンボールに入れられてつまれていた。10箱くらいあるだろうか。
広瀬たちは、ダンボールの箱をあけ、中身を確認していった。東城が一つの箱の中をみてみると、食器やキッチン用品が入っていた。
伯母は、箱の一つから女性のワンピースを取り出してため息をついた。
「この服、私が咲恵さんに最初に会った時に着ていたものだわ。咲恵さんおしゃれしてて、かわいらしかったわ」その箱には、他にも衣類が何着か入っていた。「これ、信隆さんのだわ」そう言って見せたものは、箱に入った銀色のカフスボタンだった。「結婚式でつけたのよ」
広瀬はそれをじっと見ている。
「準備してたはずのカフスボタンがみあたらないって前日に気づいて、あわてて咲恵さんがデパートに買いに行ったのよ。信隆さんっていつでも憎らしいくらい落ち着いてた人だったのに、さすがに結婚式の前であせってたのが印象的だったわね」
伯母は思い出して軽く笑っていた。
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