11 / 193
第11話
東城は、上の方につまれたダンボールをおろしたり、つみなおしたりする手伝いをした。
「東城さんがいてくださって助かったわ」と広瀬の伯母にいわれた。
確かに、広瀬と伯父夫婦だけでは、時間がいくらあっても足りなかっただろう。3人は箱を開け、中を見ていちいちしみじみとしていて、とてもではないが片付けには程遠かったのだ。
東城がみていたダンボールからは本がでてきた。多くは、法律関係の本だった。
高級官僚らしく、難しそうな本ばかりだ。
中に、数冊ちがうものがでてきた。子供の発達心理学や、脳科学の本などだ。医学書に近いものもあった。
不思議に思ってみていると、伯父が説明してくれた。「これは、彰也が幼稚園にあがるころから集団生活を送るのに課題があるといわれて、信隆さんと妹の咲恵が勉強していた本です。妻もこのころ本や講座を紹介していました。信隆さんは毎日仕事で忙しかったのですが、よく質問してきたり、熱心に勉強していましたよ」
「そうですか」ページをめくってみると付箋が貼ってあったり几帳面な文字で細かく書き込みがしてあった。
この段ボールの中にある品は、どれも、故人の思い出がそれぞれに詰まっているのだ。
「いっそ、全部うちに運んだらいいんじゃないか」と、片付け切らない作業を見てとうとう東城は広瀬に言った。
たいした量ではないし、倉庫にいれるなり、屋根裏に片付けるなりするといい。
「そうですね」と広瀬は言った。何一つ捨てることはできないだろう。
広瀬は伯母から家の鍵を預かった。何箱かは、車に積み、持ち帰ることにし、残りは、早々に、取りに来ることになった。
ともだちにシェアしよう!