12 / 193
第12話
東城は再び伯父夫婦を乗せて駅にむかった。彼らは仕事の都合で、帰らなければならないのだ。
車の中で「今日は彰也の元気そうな顔がみられてよかった」と伯母は言った。「遺品の片付けもできたし、久しぶりに咲恵さんと信隆さんのこと、ゆっくり思い出せたわ」
それから、彼女は急に「あら」と声を上げた。「忘れてたわ」そして、膝にのせていた手提げ袋をあけると中から紙袋を出してきた。
「東城さん、お酒は飲むのかしら?」と聞かれた。
今日、一日中一緒にいたが、質問をされるのは初めてだった。
東城は、バックミラーごしに彼女を見た。こういう場合、何というのが優等生の回答なのだろうか。「ほどほどには飲みます」と答えた。
「よかった。これ、おみやげです。うっかりお渡しするの忘れるところだったわ」そう言って差し出された。
「ありがとうございます」と言えたが、運転中なので手はだせない。広瀬が代わりに受け取った。
「ちょっとした珍味なんだけど、お酒のおつまみにでもしてください」と彼女は言った。
広瀬が紙袋の中身を覗きこんでいる。
「お菓子買って甘いもの苦手だったら困ると思って」と伯母は広瀬に言った。それから東城に言う。「うちの方は美味しい食べ物いっぱいあるんですよ。今度遊びにいらして」
東城は礼を言った。
社交辞令にしてもほっとした。
自分は合格点だったってことだろうか。そう考えた後、勝手にテストを設定して合格点とれたかと心配している自分に気づいた。
やっと肩から力が抜ける気がした。
駅に着くと、二人は名残惜しそうに広瀬に別れを告げた。そして、何度も東城に頭を下げながら駅の改札をとおって帰っていった。
ともだちにシェアしよう!