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第13話
家に帰ると、石田さんは既に帰っていて、家にはいなかった。
広瀬と東城は、車に積んだいくつかの箱をおろし、とりあえず二階の広瀬の部屋にいれた。
箱の中身は、些細なものだったが、広瀬の両親のわずかに残された思い出の品だ。
父親の古びた万年筆や母親が使っていただろう細い鎖の腕時計、小物などだ。
赤い表紙の児童書もある。広瀬が子どものころ好きだった本だ。幼いころにクレヨンできままに落書きしたページもある。広瀬はその本をぱらぱらとめくった。
すると、ハラリと一枚の写真が床に落ちた。
拾い上げると両親と広瀬が写っていた。東城が手元を覗き込んでくる。
「こんなところに写真があったなんて」と広瀬は言った。「両親の写真はほとんど残っていないんです」
「どこかに飾るか?写真たて使う?」
「あるんですか?」
「うちは、探せば何でもあるんだよ」と言い、東城が一階に降りて行った。しばらくすると、シンプルな木枠の写真たてを持ってきた。
写真を入れようとして、東城が聞いた。「これ、なんだ?」
裏に子どものつたない文字が書かれていた。鉛筆の文字は薄くなっていて、ただでさえ読みにくい文字が判別つきにくくなっている。
「なんでしょうか」と広瀬も言った。「俺が書いたんだと思います」
「『ちさ、の』だな」といくつかの文字を拾って東城は読んだ。「『ちき』かもしれないな。『ちき』、うーん。『う』かな」
読めそうもない文字をしつこく読んでいる。しばらくして、東城が言った。「あ、わかった。『ちきゅうぎ』だ。これ、『ちきゅうぎ』って書いてある」なぞなぞの答えが分かったように喜んでいる。
「『ちきゅうぎ』ってなんですか?」
「俺が知るかよ。お前が書いたんだろ。『ちきゅうぎ』の後は、『の』だろ。で、『ひ』かな。この横棒は、文字が消えたのか、言葉をのばす記号か」
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