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第24話
岩下教授の家にはすでに何人か来ていた。教授宅は別な所轄署の区域内にあるため、大井戸署はお邪魔させてもらっている感じだ。
高田が所轄の刑事と一緒に数人の女性から話を聞いていた。相手は、近所の町内会の人たちで、遺体の発見者だった。彼女たちは岩下教授とそれほど親しいわけではないのだが、今朝は早くから町内の大掃除だの日で、待っていても現れないので心配で家に来てみたらしい。
「岩下さん、時間には正確で、無断で遅刻したり欠席したりする人じゃない方なんです。それほど高齢じゃないですけど独居老人でしょう。万が一倒れたりしてたらと思って中に入ってみたんです」
ドアが開いていたので入ったら遺体を発見したのだ。すぐに救急車と警察が呼んだ。
「ドアのカギは開いていたんですね」と所轄の刑事が念押ししている。
「ええ」
「いつもそうなのでしょうか?岩下さんは在宅中はドアに鍵をかけないでいますか?」
「さあ。そうちょくちょくこの家に来ているわけじゃないから。でも、町内会の件でお邪魔するとき、鍵は閉めてたような気はしますね」と女性の一人が答えていた。
刑事と高田は女性たちに後日またお話を聞くかもしれませんと言った。
話が終わるのを見計らって広瀬はすかさず彼女達に挨拶をし、名刺を渡しながら連絡先を聞いた。
「先ほどもお伝えしましたけど」という人もいるが、「もちろんです」とか「すみません」とか言いながら、なんとか教えてもらうことができた。腰は低いので、女性たちが自分にはあまり警戒しないという自己認識はある。
「岩下さん、ご家族がいないけど、これからどうなるの?」と聞かれた。「奥さんも亡くなっちゃってるし」
「田舎に親戚がいるって前に言ってたわよ」と別な女性が口を出す。「誰が連絡とるのかしら」
「この家に出入りしてた方はいましたか?ご友人とか、ご親族とか」
近所の人たちは顔を見合わせる。「さあ」と言った。覚えていないということだった。
「ああ、でも、夜に人が来ていることもありましたよ。教え子の人かしらって思いました。先生って呼んでいたから」
「若い方ですか?男性ですか?」
「多分。姿は見たことないけど、インターフォンならして岩下さんを呼んでいた声が、聞こえてきて。男性なのは確かです」
そう言ったのは、岩下教授のむかえの家の主婦だった。
全て聞き取ると、彼女たちは、お葬式はどうなるのだろうか、手伝いが必要なら分担して、などと口々に言いながら歩いて行った。
ほどなくして、宮田が向こうから走ってやってくるのが見えた。息を切らしていて顔色が悪い。ショックを受けているのだろう。高田に挨拶するとすぐに質問した。
「死因は何でしょうか?自殺ですか?」
「検視中だ」と高田は答えた。「死因はその結果待ちだ。家の中で倒れていたところを発見されている。すぐにわかる外傷はなかったようだ」
「もし、自殺だとしたら」と宮田が言った。「例の実験関係でしょうか」
「結論を急ぐな。それより、家の中を確認してこい」
「はい」と宮田は指示に従い岩下教授の家に入っていった。
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