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第27話
「盗聴器が見つかりました」とその夜宮田が報告した。
「キッチン、寝室、居間の3か所からです。一見わからないのですが、コンセントに指してたこ足にするための三つの穴のついたコンセントです。電源を取りながら盗聴をするのでかなり長期にわたって利用できます。どれも同じ型でした。同じ人間が仕掛けたと考えられます」
大井戸署内の会議だ。
課長や高田、数人の刑事が参加している。
島根の県警から連絡があってから、岩下教授の実験や自殺者について調べているメンバーだ。全員が片手間なため、捜査自体は大きく進捗はしていなかった。そこにきて、岩下教授本人が死んだのだ。
「誰かが、岩下教授を見張っていたのでしょうか。盗聴器の出元は、向こうの所轄が確認することになります」と同じ班の刑事が言う。
別な刑事が報告をした。
「今のところ、何らかの薬物による死亡とみられています。死体には注射の跡などありませんから、薬物は経口摂取していると考えられるそうです。どんな薬物だったかは、結果待ちです」
「服毒自殺か事故と考えるのが妥当だろう。盗聴器は死亡とは関係ないんじゃないか」と年嵩の一人が言った。「むこうの所轄の処理事案だ。こっちがこれ以上何かするようなことじゃないだろう」
「しかし、これで死者は3人目ですよ」と宮田は反論した。「何らかの背景があると思いますが」
「他の2人の自殺と今回の死亡と関係は証明しにくいだろう。俺は自殺だと思う。自殺は伝染する。周辺に影響を及ぼすんだ。岩下教授も、教え子2人が自殺して、影響をうけたんじゃないのか」
「岩下教授の歯からは、何かみつかったのでしょうか?」と広瀬が聞いた。
司法解剖結果を持ってきた刑事が書類を見ながら言う。「奥歯の歯茎に微小な炎症がみられたそうだ。だが、島根の自殺者の金井さんから見つかったような不審なデバイスはなかったそうだ」
そう言いながら口の中の写真とレントゲン写真が示された。
「デバイスをつけていたが、取り出したのではないですか」と刑事の一人が言った。「この、炎症っていうのは気になりますが」
「デバイスの跡かどうかはわからない。事実としてあるのは、炎症があるということだけだ」
広瀬は写真を手に取ってじっと見た。医師の説明がなければ炎症ということすらもわからないだろう。
「自殺者が3人。盗聴器。歯の炎症。どれも怪しそうではあるが、単なる偶然ともいえる。それに、もし、実験のせいで自殺したとして、誰が何の罪で処罰されるんだ?研究の責任者の岩下教授が死んでしまったんだから、事件だとしても、犯人というような人間はもういないんだぞ」と疑問を呈していた刑事が言う。「これは自殺か事故案件として処理されるんですよね?」と彼は高田に質問した。
高田は、黙っていた。
「違法な実験がされていたことを証明できれば、刑事事件になるんじゃないですか?」と宮田が聞く。
「だから、その証明が難しいんだろ」
「ですが」と宮田は言った。「もう少し調べれば」
「この案件以外にも被害者が実際にいて苦しんでる事件は山のようにあるんだ。こんな歯につけるデバイスだとかなんとかのSFみたいな話に時間割くほど宮田は暇なのか?」
「自分は命じられた職務を果たしているだけです」と珍しく事なかれ主義の宮田が反論している。
そこで高田が口を開いた。
「事件化して今後捜査を進めるかどうかは、情報を勘案して上が判断する。岩下教授の案件は確かに向こうの所轄の事案だ。ここで口論するな。時間の無駄だ」
「高田さんはどう思われるんですか?」と宮田は聞いた。上の判断は判断だが高田の意見はかなり勘案の中の比重を占めるのだ。
だが、高田はその質問には答えなかった。「書類はきちんと作成しろ。事実のみを整理しろ。それぞれの私見は不要だ」と彼は言った。
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