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第28話

東城は遅い時間に帰ってきた。 家の中は明かりがついていて、広瀬が帰ってきているのは確かだった。 廊下を進むとキッチンの方から人の声がしてきている。 この時間に自分が把握していない来客ということは、歓迎する相手ではなさそうだ。急ぎ足でそちらに向かった。 そして、誰がいるのかを知ってほっと安心するとともに、うんざりした気分になった。 キッチンの隣のスペースには、ウィスキー好きな広瀬のために特注でしつらえた木目基調のカジュアルなバーカウンターがある。そのカウンターの前のハイチェアに宮田が座っていたのだ。 広瀬はカウンターの向こう側に立ち、宮田のグラスにビールをついでやり、自分はロックを飲んでいる。 カウンターには一口サイズの空揚げやナッツ、スティック野菜がならんでいる。 宮田がよどんだ目でこちらをむいた。「おかえりなさい」と彼がいう。 シャツのボタンをはずしただらしない恰好だ。スーツのジャケットやネクタイはどこかにいってしまっている。 広瀬はまだきちんとスーツを着ているところをみると、帰って来たばかりなのだろう。だが、グラスをもってぼうっとしている彼が何を考えているのかは相変わらずわからない。 東城はわざとらしく腕時計を見た。「お客さん、もう終電出ますよ。帰った方がいいんじゃないですか」 宮田は濁った目を東城にむける。「今日はここに泊まりです」 「は?」 「広瀬がいいって言いました」と彼が言うので広瀬の方をまた見た。広瀬は無表情のままだ。本当に同意したのかどうかもわからない。 「ベッドルームは余分にあるから大丈夫でしょう」と宮田がずうずうしく言う。「それに、終電はもう出てますよ。タクシー代もってないし、外はもう寒いから、ここで追い出したら鬼ですよ」さらに、「どうぞ」と宮田は自分の隣の椅子を示す。「遠慮はいりません。座ってください」 「なんで俺がじぶんちで遠慮しなきゃいけないんだ」と東城は言った。「それで、どうしてお前がここでくつろいでるんだよ」 宮田は大袈裟にため息をつく。「これがくつろいでるようにみえますか?」と彼は言った。「嘆いてるんですよ。日本の官僚機構の弊害を」宮田はビールを飲み干し、手酌で追加している。

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